宮崎駿監督『風立ちぬ』のポスターはクロード・モネの「散歩、日傘をさす女」を彷彿とさせます。 …
■『風立ちぬ』
クロード・モネ 散歩、日傘をさす女 1875
印象派はいいですね。特にこの絵は西洋絵画にしてはめずらしく「さわやかな風」を感じることができるところが宮崎駿監督の気に入っているところではないでしょうか。
印象派の絵と宮崎作品といえば、ジーナの私庭のガゼボ(洋風あずまや)でジーナがカーチスに、「ここではあなたのお国より、人生がもうちょっと複雑なの。」と語るシーンがありますね。そこでこのマネの作品をごらんください。
マネ「ラテュイユ親父の店にて」1879
ほら、あのシーンを思い出したのではないでしょうか。そしてふたりがジーナとカーチスに見えてきませんか。
そして計算尺。
電卓やコンピューターなんて想像もできないはるか昔、親父が製図台に向かって計算尺を使いながら建物の図面を引いていた姿を観ていて「すごくかっこいい、でも難しそうだから僕にはできないな。」と考えたことを思い出しました。
■ 引退会見_ジブリ創立は1985年
新型の『フィット ハイブリッド』発売。宮崎監督引退会見。ベネチア映画祭 宮崎監督作品受賞逃す。 2020年「東京五輪」決定。
先週は本当に色々なことがありました。「東京五輪」についてはこれから7年も猶予があるのでそんなに感慨も沸いて来ません。やはり、「宮崎監督引退」のほうが時代の流れを感じます。
僕らのスタジオは、経済の上り調子のところで、バブルが崩壊するところで引っかかってたんです。それがジブリのイメージをつくったんです。
その後じたばたしながら「もののけ姫」を作ったり、いろいろやってきましたけど、僕の「風立ちぬ」までずるずるずるずると下がりながら、これは一体どこへ行くんだろうと思いつつ作った作品だと思います。ただ、このずるずるずるが長くなりすぎると、最初に引っかかってたナウシカ以降の引っかかりがもう持ちこたえられなくなって、どろっと行く可能性があるところまで来ているのではないかと。
引退記者会見でのこの言葉から、つい『ナウシカ』の未成熟な巨神兵が砂丘の頂点から崩れ落ちるシーンを想像してしまいました。
宮崎駿監督はドロドロ溶け落ちる巨神兵とスタジオジブリと時代を重ね合わしているようです。
そして頂上に打たれズルズルと砂丘をすべり落ちるジブリを支えていた杭が、時代の動きの加速とともに今まさに抜け落ちようとする寸前に引退声明を表明したのかと思い至ります。
■ Mac も『風の谷のナウシカ』と同じ1984年
じつは1984年『風の谷のナウシカ』の公開と Macintosh 128K の発売は同じ年なのです。
それから約30年。スタジオジブリは日本、Apple はアメリカの時代を過ごしてきたことになります。
Apple Keynote ジョブズのスピーチ(字幕付き)とCM「1984」
そうか『フラッシュ・ダンス』が公開された年にはまだ Mac はなかったのですね。
■ 1985年は日本にとってターニングポイントの年だったのかも。
東京五輪誘致プレゼンテーション
マスコミには「オリンピック招致の勝因は、滝川クリステル」「滝クリ「お・も・て・な・し」ブームが日本を変える」などのタイトルが踊っています。
本当はIOCの夏季東京五輪誘致のプレゼンテーションはリサ・ステッグマイヤーさんにやって欲しかった。
その理由は、例えばNHKの「COOL JAPAN 発掘!かっこいいニッポン」の司会が鴻上尚史と滝川クリステルの組み合わせだったらどんな雰囲気になるでしょう。安倍首相との組み合わせではどうでしょうか。どちらが凛とした日本のイメージを表現できるのか。どちらにしてもリサさんはこの7月にシンガポールで第2子を出産しているので難しかったのですが。残念です。
リサ・ステッグマイヤー 1971年生まれ 1985年来日(13歳)
上智大学比較文化学部日本語日本文化学科卒業
滝川 クリステル 1977年生まれ 1981年来日(3歳)
青山学院大学文学部フランス文学科卒業
この違和感はどうも70年代を実体験として過ごしているかどうかの違いかも知れません。ちなみに「COOL JAPAN 発掘!かっこいいニッポン」の日本人出演者は全員体験しています。
そして80年代をどのような世代で過ごしたかということも。
80年代の正体
1980年の日本経済は1950年と比較して、日本のGNPは80倍、一人当たりの国民所得は50倍、輸出は140倍、輸入は90倍になっていました。勤勉を信条とし、なんとか人間らしい生活リズムに合わせていた日本人の精神構造が急激に拡大した経済社会についていけず、80年代に入って幻想と誤解と自惚れと無知とが入り乱れ始め、85年以降とうとう半狂乱状態になってしまいました。そして挫折。
83年の東京ディズニーランド開園以降、全国にテーマパークがブームとなり、「おたく」が蔓延し校内暴力が吹き荒れました。宮崎駿監督はその10年後の精神変容した日本人の親子を80年代の残骸の風景とともに『千と千尋の神隠し』に描いています。そして子供はいまならまだ間に合うとも。
それはどんな時代だったのか ハッキリ言って「スカ」だった!
●あなたは、深夜のコンビニエンス・ストアをよく利用することがありますか。
●あなたは、できることなら自由気ままに、自分の好きなことだけをして暮らしていきたいとと思いますか。
●あなたは、マスコミ関係の仕事、いわゆる「ギョーカイ」で働きたいと思ったことがありますか。
●あなたのクルマには、ユーミンのミュージック・テープが積まれていますか。
●あなたは、楽にもうかるのならマネーゲームを始めたいと思いますか。
●あなたは、朝シャンプーをして出かけることがありますか。答えが,三つ以上「イエス」だった方は(この本を手に取っている)この場でレジへ足を向けてもらいたい。あなたこそ、この本の真の読者だ。
資本主義の生産と消費の両面で相乗しておこる「差別化」と「模倣」の「永遠のいたちごっこ」のなか、モノが濃密に編み上げられ、情報化した時代。自分との関係性や経験を語る言葉さえも失いつつある今だからこそ、問いたいのだ。「80年代それは『スカ』だった。」のではないか、と。
別冊宝島110『80年代の正体! 』1990年
『乳の海』と液状化
1985年を日本のひとつのターニングポイントとする考え方があります。「1985年」に注目する考え方に初めて触れたのは藤原新也氏の『乳の海』を読んだ時でした。
宮崎駿監督の表現する「ズルズル」感はこの頃始まった社会の「液状化」を表現しているのかもしれません。
突然起きる自然現象と違い、歴史上の事件というのはそのまえに様々な前触れの事象が起きています。
1980年に起こった神奈川金属バット両親殺害事件をきっかけに表層に現れてきた漂流を始めた若者の精神構造を捉えた前著『東京漂流』の続編となっており、1985年を越えた1986年を「自己滅却の桃源」と結んでいます。
これは現在「液状化する社会」「個人化」と呼ばれている現象の始まりを予感させるものです。
それから20年後、吉崎達彦氏の『1985年』という著作から1868年以降、約40年ごとに栄枯盛衰を繰り返しているという日本の「国運40年周期説」というものが広く世に知られました。こちらも1985年を日本のひとつのターニングポイントと指摘しています。
国勢の盛衰と日本人の精神的変容は偶然に一致したのか、またその方向性を同じくしているのかは分かりません。どちらにしても時代の流れによってさらに変化していくのは確かです。
■「宮崎駿作品とその時代のキーワード」年表
過去30年間には実に様々なことが起きています。そのなかからその当時を象徴したり後の時代の萌芽となったモノやコトを独断と偏見で選んで宮崎駿作品とともに年表を綴ってみました。
やってみると渦中にいる時には自分の置かれている状況というものはなかなか見えないものですね。自分で動いているつもりが、時代に動かされているだけだったり、時代の流れを飛び出しても結局それも時代の流れだったりして。時代とういものは実に狡猾でねちっこい。
戦闘機設計者が主人公の『風立ちぬ』に対し韓国のネット上で「戦争を美化している」などと批判が出ていることに関し、宮崎駿監督は「堀越は軍の要求に抵抗して生きた人物だ。あの時代を生きたというだけで罪を負うべきだろうか」さらに公開前の批判に対して「映画を見ていただけば分かると思います。映画を見ないで論じてもほとんど始まらないと思いますので、是非、お金を払って見ていただけるとうれしいなと思います。」と皮肉を込めて述べています。
過去の時代の渦中で必死で生きてきた人々を現在の視点で批判することは容易いことかも知れませんが、その批判している人々もやがて次の時代の視点で審判を受けるわけです。できるだけ客観的に自分の考え方の根拠となっている知識の背景を見つめながら考える必要があります。
1980年 山口百恵引退 松田聖子デビュー
1980年 第2次石油危機(1980年 2月~1983年 2月)『Dr.スランプ』連載開始 3.5インチFD 『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)
・小学館CM「ピッカピカの一年生」
・ミノルタCM「いまのキミはピカピカに光って 」
・富士フイルムCM「美しい方はより美しく、そうでない方はそれなりに写ります」
・資生堂CM 「不思議なピーチパイ」
・カネボウ化粧品CM「唇よ、熱く君を語れ」
1981年 PC/AT互換機 SONY マビカ LDプレーヤー
『窓ぎわのトットちゃん』
・ACジャパンCM 「子供は、あなたのコピーです」
・カネボウ化粧品CM「春咲小紅」
1982年 小泉今日子 花の82年組 PC-98シリーズ 積木くずし
・ACジャパンCM 「もったいないお化け」
・カネボウ化粧品CM「赤道小町ドキッ」
・資生堂CM 「い・け・な・いルージュマジック」
1983年『おしん』
1983年 ハイテク景気(1983年 2月~1985年 6月)東京ディズニーランド開園 パーソナルワープロ 軽薄短小 マイケルジャクソン ミュージック・ビデオ MusicTV ファミコン フラッシュダンス
・資生堂CM 「め組のひと」
・カネボウ化粧品CM 「君に、胸キュン。」
1984年『風の谷のナウシカ』
『僕はかなり頭にきていました。頭にきてないとナウシカなんか作りません。ナウシカ、ラピュタ、トトロ、魔女の宅急便というのは、基本的に、経済は勝手ににぎやかだけど心の方はどうなんだとか、そういうことをめぐって作っていたんです。』
1984年 Macintosh発売 『金魂巻_現代人気職業三十一の金持ビンボー人の表層と力と構造』 ドラゴンボール連載開始 MacPaint MacDraw Microsoft Word 1.0 for Mac NHKBS試験放送
・ACジャパンCM 「人生、投げたらアカン」
・禁煙パイポCM「私はコレで会社をやめました」
・ソニー広告「ベータマックスはなくなるの?」
1985年ジブリ創立
プラザ合意
1985年 円高不況(1985年 6月~1986年11月)Microsoft Excel 1.0 for Mac おニャン子クラブ
1986年『天空の城ラピュタ』
1986年 バブル景気(1986年11月~1991年 2月)Illustrator1.0 for Mac WordPerfect for DOS
・タケダ胃腸薬21CM 「飲み過ぎたのは、あなたのせいよ」
・金鳥ゴンCM 「亭主元気で留守がいい」(1986年)
・ACジャパンCM 「ひとりで食事をする子供が増えている。」
1987年 サラダ記念日 ノルウェイの森
・ACジャパンCM 「迷惑駐車」(1987年)
1988年『トトロ』
1988年 ゲームの達人『火垂るの墓』WordPerfect for Mac メモリーカード記録形デジタルカメラ
・セフィーロCM 「みなさんお元気ですか~」
・リゲインCM「24時間、戦えますか。 」
・JR東海CM「ホームタウン・エクスプレス」クリスマス編
1989年『魔女の宅急便』
昭和天皇崩御 平成元年 ベルリンの壁崩壊
1989年 消費税導入 時間の砂
・ハンディカムTR-55CM「パスポートプリーズ」
1990年 『ちびまる子ちゃん』放送開始 Photoshop 1.0 for Mac
1991年 バブル崩壊
『経済の上り調子のところで、バブルが崩壊するところで引っかかってたんです。それがジブリのイメージをつくったんです。』
1991年 ジュリアナ東京 もものかんづめ 『おもひでぼろぼろ』
1992年『紅の豚』
『そのときに体をかわすようにですね、豚を主人公にしたり、高畑監督は狸を主人公にしたりして切り抜けた……切り抜けたなんていったら変ですけど多分そうです。』
1992年 のぞみ登場 就職氷河期 尾崎豊突然死
・JR東海CM「そうだ 京都、行こう」
・セコムCM「セコム、してますか?」
1993年 カンフル景気(1993年10月~1997年 5月)非自民・非共産連立政権 奥尻島津波
1994年『平成狸合戦ぽんぽこ』 平安建都1200年事業 同情するならカネをくれ J~POP
・松本引越センターCM「キリンさんが好きです、でもゾウさんの方がもっと好きです」
・ニッセンCM「見てるだけ」
1995年『耳をすませば』 阪神・淡路大震災 地下鉄サリン事件 Windows85 無党派 脳内革命 液晶デジカメ PHS ベル友 マインドコントロール
1996年 ISP各社事業開始
1986年 DVDプレイヤー
・ACジャパンCM 「知らんぷりよりちょっと勇気」
1997年『もののけ姫』
1997年 列島総不況(1997年 5月~1999年 1月)山一證券破綻 消費税率引き上げ ポストペット たまごっち 京都議定書 格差社会 酒鬼薔薇聖斗事件
1998年 iMac(Rev.A)・iBook発売 トランスルーセントデザイン Windows98 モー娘 踊る大捜査線 ヤマンバ iモード
・桃の天然水 「ヒューヒュー」
1999年 iMac(Rev.C)発売 キャンディーカラー ユーロ導入 国旗・国歌法成立 アイボ リアップ『ホーホケキョ となりの山田くん』IT景気(1999年 1月~2000年11月)
・ACジャパンCM 「ジコ虫」
2000年 密室の政権交代劇 アメリカ大統領選混乱
2000年 デフレ不況(2000年11月~2002年 1月)
・ACジャパンCM 「歩きタバコ」
2001年『千と千尋の神隠し』
液状化する社会 アメリカ同時多発テロ事件
iPod発売 Windows XP 小泉内閣発足 世界の中心で愛をさけぶ
・ACジャパンCM 「IMAGINATION(黒い絵)」
2002年 失われた10年『猫の恩返し』 いざなみ景気(2002年 1月~2008年 2月)
・アイフルCM「どうする? アイフル!」
・アメリカンファミリーCM「よーく考えよー、お金は大事だよー」
2003年 イラク戦争 バカの壁 BDレコーダー
・タケモトピアノCM「ピアノ売ってちょーだい」
2004年『ハウルの動く城』
1904年 宮廷女官チャングムの誓い
・ACジャパンCM「江戸しぐさ」
2005年 『国家の品格』『下流社会』AKB48
2006年 戦後レジームからの脱却 テレホンカード廃止 ライブドア事件 『ゲド戦記』
・キユーピーCM「たらこ・たらこ・たらこ」
2007年 iPhone発売 ホームレス中学生
2008年『崖の上のポニョ』
2008年 リーマンショックと世界同時不況(2008年 2月~2009年 3月)0系新幹線引退
2009年 『サマーウォーズ』民主党政権発足 2位じゃダメなんでしょうか? もし高校野球の女子マネージャーが ドラッカーの『マネジメント』を読んだら
2010年『借りぐらしのアリエッティ』平城遷都1300年祭 ゲゲゲの女房 はやぶさ帰還 ねじれ国会 所在不明高齢者問題 観測史上最も暑い夏 尖閣諸島中国漁船衝突事件 H-IIBロケット1号機打ち上げ 「radiko.jp」開始
2011年 東日本大震災 スティーブ・ジョブズ死去
『コクリコ坂から』福島第一原子力発電所事故 ACジャパンへの反感 赤坂プリンスホテル閉館 大相撲八百長問題
2012年 第2次安倍内閣発足 地上デジタルテレビ放送完全移行 東京スカイツリー開業 李明博竹島上陸 尖閣諸島国有化 韓流ブーム終焉
2013年『風立ちぬ』宮崎駿監督引退発表
『いろいろやってきましたけど、僕の「風立ちぬ」までずるずるずるずると下がりながら、これは一体どこへ行くんだろうと思いつつ作った作品だと思います。ただ、このずるずるずるが長くなりすぎると、最初に引っかかってたナウシカ以降の引っかかりがもう持ちこたえられなくなって、どろっと行く可能性があるところまで来ているのではないかと。』
2013年 反韓デモ 異次元の金融緩和 日経平均株価上昇 高見盛引退 横綱大鵬国民栄誉賞 『あまちゃん』長嶋茂雄国民栄誉賞 出雲大社平成の大遷宮 富士山世界遺産登録 ねじれ国会解消 固体ロケットイプシロン打ち上げ
2014年 スタジオジブリ制作部門の休止。
Flashdance What a Feeling(1983)