中国古典の記憶3_中国歴史ドラマ

そして、現在は中国歴史ドラマ。

ネットTVで観ることのできる日本を除いたアジアの時代劇といえば朝鮮半島のドラマが多いのですが、やはり王道はその昔アジアの中心世界だった中国の二十四史(とくに『史記』)の記述を縦軸、創作されたエピソードや古装を横軸に楽しめる、帝政時代の歴史を描いた中国歴史ドラマではないでしょうか。

20190202_010.jpg
Wikipedia

『史記』の記述は、殷墟(1928年)兵馬俑坑(1974年)夏太后陵墓(2006年)などの発掘調査によってその正確さが次々と裏付けされてきていて、それをビジュアルに観ることのできる楽しみがあります。


『李陵』

『史記』の原作者の司馬遷について、中島敦が1943年に発表した短編小説『李陵』に描いています。

20190202_01-2019-01-16-09-06.png

『李陵』には『漢書』を原典として、前漢の武帝から昭帝の時代の匈奴の俘虜となった李陵を中心として関わりのあった司馬遷、蘇武についても描かれていて、司馬遷は友人の李陵を弁護したゆえに武帝の怒りを買い、宮刑に処せられます。この出来事は出獄後に執筆した『史記』の内容に影響していて、完成した『史記』は武帝の代には隠されていましたが宣帝の代になり司馬遷の孫にあたる楊惲が広めたといわれています。

司馬遷が『史記』編纂した頃の社会状況とその変化が分かります。

ところが、こうした歴史物が難しいのは、

人気のある「国民的物語」が小説や映画、ドラマ、マンガ、アニメ、ゲームなどによって一般の人々の歴史像の形成に少なくない影響を与えているように、現在の常識や評価で歴史上の出来事を脚色、あるいは「こうであったはずに違いない。」として想像して描かれた歴史ドラマは面白く人気を博します。

しかし、それらを単なる創作物として楽しむだけでなく、まともな史実として信じてしまう人々も少なからずいるということです。

『李陵』における登場人物の心情表現は、作者の中島敦氏の生きた大正から昭和という時代の日本人のものでもあるのです。


中国の時代劇事情

20190202_02-2019-01-16-09-06.jpeg

2010年代に入り、中国の時代劇は『三国志 Three Kingdoms』(2010年)、『水滸伝』(2011年)、『武則天』(2015年)、『ミーユエ 王朝を照らす月』(2016年)など映画並みスケールで撮影され見応えのある作品が続々と登場しています。

かっての最盛期のNHK大河ドラマを彷彿とさせる個性豊かな俳優陣。衣装もありえない色使いの化繊ではなく、素朴な色合いの味わいある綿や絹の織物。潤沢な制作費を投下したスケールの大きくリアル感のある舞台装置など、往年の日本の時代劇の持っていた楽しさを思い出しながら観ることができます。

(専門家ではありませんから、描かれる衣食住など日常生活や風習がほんとうなのかはよくわかりません。それでも宮廷ドラマの演出過剰な女性の衣装やメイク、装飾品、武侠ドラマでの戦闘場面の誇張やCG合成の不自然さなどを除けば自然に感じます。)


「古装」「宮廷」「歴史」「武侠」

中国テレビドラマのジャンル分類

中国では、テレビドラマは「青春、家庭、軍旅(軍隊)、言情(恋愛)、古装、偶像(アイドル)、諜戦、刑偵、宫廷、懸疑(サスペンス)、歴史、武侠、年代、農村、喜劇、其他」の16ジャンルに分類されていて、このうち、日本で「時代劇」と称されるドラマは「古装」「宮廷」「歴史」「武侠」の4つに含まれています。

「古装」は内容に関わらず古代の装束を身につけて演じられるドラマ、「宮廷」は王朝の宮廷を舞台にして描かれるドラマ、「歴史」は史実を基にしたドラマ、「武侠」は武術に長けて義を重んじる人々が主人公のドラマといったニュアンスでしょうか。

 

時代劇に対して「歴史劇(史劇)」というものも存在するが、フィクションに近いかノンフィクションに近いかで区別する時代小説と歴史小説とは違い、日本国内のものを「時代劇」、日本以外のものを「歴史劇」あるいは「史劇」と呼び分けている。
Wikipedia


中国のTV時代劇について調べてみると、日本とは違った事情が垣間見えてきます。


日本では時代劇自体が作られなっているのに対して、中国では歴史劇が人気コンテンツとして盛んに作られ続けています。これには番組編成上の政策上の規制があるのと同時に、多チャンネル化による番組コンテンツ不足といった中国特有の事情があるようです。

ドラマ放送は一度に数話、時間にして最低でも90分を越えて長いときは 4時間もの連続放送のため、かなり古い作品も頻繁に再放送されています。

そして、日本では時代劇・時代小説は男性のものという先入観が根強いのに対して、中国では視聴者に男女差はあまりないようです。ということは女性層も歴史ドラマの主要な視聴者ですので、女性が主人公の宮中での女の争いをモチーフとした作品も数多く製作されて話題となるわけです。

意外なのは、日本人は国外の歴史ドラマ(およびそれによって形成される歴史像)についてあまり関心がないのに対し、中国の若い知識人層は中国の歴史ドラマだけでなく、日本や韓国の歴史ドラマについても十分な知識・関心を持っているということでした。

論説 中国人の歴史認識とテレビ歴史劇及びその周辺 PDF

 

ということで、

いろいろ観てみたのですが、ファンタジー満載の古装物やめんどくさい女性達が闊歩する宮廷物、誇張しすぎでコミカルな武侠物よりも、リアリティの香りで、悠久のできごとに想いをめぐらす歴史ドラマがやっぱり好き。

 

そこでお気に入りの中国歴史ドラマのご紹介。


春秋時代(前770年~前453年・前403年)

20190202_03-2019-01-16-09-06.jpg

『孫子《兵法》大伝』2010年(全35話)

描かれるのは孫武(前535年?~没年不詳)

「呉越同舟(ごえつどうしゅう)」「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」などの四字熟語が生まれた呉越が戦っていた頃の孫武を主人公としたドラマ。

 

呉越の戦い
6代王の闔閭(寿夢の孫)の時代、呉は強勢となり、名臣孫武、伍子胥を擁し当時の超大国楚の首都を奪い、滅亡寸前まで追いつめた。しかし新興の越王允常に攻め込まれ楚から撤退した。これを恨んだ闔閭は允常の子で後を継いだ勾践と戦うも闔閭は重傷を負い、子の夫差に復讐を誓わせ没する。夫差は伍子胥の補佐を受け、会稽にて勾践を滅亡寸前まで追い詰める。勾践が謝罪してきたため勾践を許したが、勾践は呉に従うふりをして国力を蓄えていた。夫差はそれに気付かず北へ勢力圏を広げ、また越の策にはまり伍子胥を誅殺し、中原に諸侯を集め会盟したが、その時にすでに呉の首都は越の手に落ちていた。
Wikipedia

兵は国の大事なり。

死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり。

故にこれを経るに五を以てし、之を効らかにするに計を以てし、以て其の情を索む。

一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法なり。

 

最終回の第三十五話「兵とは国の大事なり」には孔子と老子、そして孫子が対面するシーンにはちょっとびっくり。

 


戦国時代(前453年・前403年~前221年)

大秦帝国シリーズ

タイトルは『大秦帝国』ですが、内容的には始皇帝の誕生以前の戦国時代を時代考証に基づいて再現。秦が中国を統一する以前の秦の興隆を描きだします。

シリーズ全体で142話という長大な歴史ドラマですので、途中で以前の内容を忘れてしまうこともあり、3回ほど繰り返して観ないと全体の流れを把握しきれません。でも浸りきれば、戦国時代の古代にタイムスリップしたような気分。

孝公 前361~前338 / 恵文王 前338~前311 / 武王 前311~前307 / 昭襄王 前306~前251 / 孝文王 前250 / 荘襄王 前249~前247 / 秦王政 前246~前221 / 始皇帝 前221~前210 / 二世皇帝 前209~前207 王 子嬰 前207


『大秦帝国 裂変』2006年(全51話)

描かれるのは孝公(前361年 – 前338年)

秦が弱小国から強国へと発展していく歴史を、「商鞅の変法」を中心に描いた作品。国を中原に並ぶ大国にするために富国強兵を志す孝公、そして孝公に仕える商鞅の智勇共に超人的な活躍を描いています。


そしてお気に入りなのが、続編の

20190202_04-2019-01-16-09-06.jpg

『大秦帝国 縦横 =強国への道=』 2012年(全51話)

描かれるのは恵文王(前337 – 前311) / 武王(前310 – 前307)

第26代君主・嬴駟は、商鞅の政策を引き継ぎ、身分等に囚われることなく有能な者を重用しました。他国の魏人であった張儀も秦に仕官、宰相として蘇秦の合従策を連衡策で打ち破り、同じく魏人の公孫衍も大良造として戦うなど嬴駟と共に秦の勢力拡大に貢献する姿を描いています。

嬴駟 公孫衍 張儀 羋丫頭 蘇萱 嬴疾 屈原 孟嘗君 白起

みんな素晴らしいキャスティングです。このドラマで「縦横家」という諸子百家の名を初めて知りました。

この『大秦帝国 縦横 =強国への道=』で一番好きな回は、

第4話 甘龍 (かんりょう) の死
張儀と羋丫頭(ビ・アトウ)との出会い

第48話 再会の杯
母親の葬儀の帰り道での張儀と公孫衍の再会

 

どう考えてもフィクションなのですが、誰の人生にも実際に起きる出来事を追憶したときの味わいを上手く描かれていて印象的。


『昭王~大秦帝国の夜明け~』2017年(全40話)

描かれるのは昭襄王(前306 – 前251)

その後の秦はアニメ『キングダム』に描かれます。


■ 秦朝(紀元前221年~206年)


「三国志」だけで中国史を語ることはなかれ。

そして秦朝末期から始まるのが有名な楚漢戦争。


楚漢戦争(紀元前206年~202年)

楚漢戦争は、中国で紀元前206年から紀元前202年にわたり、秦王朝滅亡後の政権をめぐり、西楚の覇王項羽と漢王劉邦との間で繰り広げられた戦争。

20190202_06-2019-01-16-09-06.jpg

項羽と劉邦 King’s War 2012年(全80話)


【公式】「項羽と劉邦」予告編

始皇帝の崩御と二世皇帝と趙高による暴政から中華全土で反乱が起き、その中から項羽と劉邦という2人の英雄が誕生する。やがて2人は強大な秦を滅ぼすが、次の王の座をめぐって激しく争う。その戦いに最終的に勝利した劉邦は皇帝となり、漢王朝を開くところまでが描かれます。

イチロー似の劉邦や中井貴一に魅力ある渋さを加えた項羽、そのほか蕭何、韓信、范増、趙高など日本人から観ても「NHK大河ドラマもこのぐらいの俳優陣だったらもっと面白いのに」と感じさせる納得のキャスティング。役者層の厚さを感じさせます。

時折、エピソードや時代考証について違和感を感じることもありますが、歴史書を参照しながら史実と演出を分けて、知らなかった史書での逸話を新たに知ることに加え、中国ドラマの演出家の力量を計るのも楽しみのひとつ。

 

時代考証

ところで、2010年代に入って視聴者の減少傾向が続いているNHK大河ドラマなのですが、中国ではこの『項羽と劉邦 King’s War』を巡って別の見方もあるようです。

 

中国では時代物のTVドラマ「楚漢伝奇(項羽と劉邦 King’s War)」が大論争を巻き起こしているという。視聴者や評論家の多くが、こうした国産ドラマについて「いい加減で、客観性に欠け、不道徳」だと指摘している。

日本の大河ドラマはわれわれ中国人が考えている時代劇とは違い、時代考証が徹底されている。

エンディングに流れるテロップに各考証担当者の名前が連なっていることからも分かるように、日本のドラマ制作では詳細な考証が行われる。当時の衣装や言葉遣い、乗馬の姿勢にいたるまでを確かめるその姿勢には驚くばかりだ。

それに比べて中国の歴史を題材にしたTVドラマでは、時代考証の専門家はわずか数人しかおらず、名前をただ貸しただけの考証家や、有名だが実力が伴っていない考証家ばかりだ。

中国の歴史ドラマは、倫理観の欠如した宮廷劇ばかりだ。視聴率を稼げる歴史ドラマを作るのも大事だが、しっかりとした内容の歴史ドラマをどうすれば制作できるのかを、今一度考えるべきではないだろうか?

2013年1月22日 レコードチャイナ

特集 なつかしの番組 大河ドラマ 全リスト_NHKアーカイブス

20190202_011.png
時代考証といえば、最近の日本の時代劇では引眉・白塗り・お歯黒の女性は登場しないような気がします。

■ 前漢(紀元前206年~8年)

■ 後漢(25年~220年)


三国時代(184年~280年)

黄巾の乱の蜂起(184年)による漢朝の動揺から西晋による中国再統一(280年)まで。(魏、蜀、呉の三国が鼎立は222年、その後263年に蜀漢滅亡。)

20190202_07-2019-01-16-09-06.jpg

『三国志 Three Kingdoms』2010年(全95話)


三国志(諸葛孔明)東呉舌戦

史書の『三国志』より小説『三国志演義』のほうがよく知られていて、『三国志演義』の方を正しい歴史だと誤解している人も多いようです。

実際、正史『三国志』は、中国・西晋代の陳寿の撰による、三国時代について書かれた歴史書。陳寿は記述するにあたって信憑性の薄い史料を排除したために、三国志は非常に簡潔な内容となっていて、あまり面白くありません。

それに対して『三国志演義』は、

明代に正史『三国志』を元にして書かれた時代小説。民衆の間で語り継がれていた三国時代の歴史物語をまとめたもので、こちらは史実に基づきながらも、例えば「桃園の誓い」や「諸葛亮の十万本の矢」などの創作されたエピソードを加えて物語として面白く脚色されていますので人気です。

(日本でいえば『宮本武蔵』のお通、巌流島遅刻、「たけぞう」、小次郎の衣装などは作者の創作。)


ところで、中国人に意外なのは悪役の曹操も日本では人気の歴史上の人物ということ。


 

「ひと口にいえば、三国志は曹操に始まって孔明に終わる二大英傑の成敗争奪の跡を叙したものというもさしつかえない」『三国志』篇外余録

たぶん原典である『三国志演義』のみでなく湖南文山の『通俗三国志』も元に執筆している吉川英治の『三国志』の影響なのでしょう。

中国人には理解不能!日本人が一番好きな中国史上の人物は“あの人”―台湾メディア 2015年12月5日 レコードチャイナ

・・・

結局、歴史上で有名な人物が登場する定番歴史ドラマのご紹介となってしまいました。全編観終わるには大変な時間を要するのですが、日本人が見ても面白い心惹かれる人物達の物語です。

そして魅力的なのは「宋の時代より前」の中国人ということ。

言われてみれば確かに・・・日本人は「宋の時代より後の中国人」を尊敬しないらしい 2018年10月11日 レコードチャイナ


本日の一曲

妙に煌びやかで感情移入が面倒なストーリーの「宮廷ドラマ」にはついていくことができず、やっぱり挫折してしまいました。


中華風BGMと雨音。Chinese Traditional Music in Raining Days

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中