ジブリのいない夏 2016

一度焼けて炭化した杭は火がつきやすいことから、以前に関係があって一度縁が切れた者同士は、また元の関係に戻りやすいものだということ。それは男女間の話だけではないようです。

時代に先を越された

『君の名は。』

100億円以上の売上を叩き出す作品群をコンスタントに世に送り出せた宮崎駿監督はまさに天才的でした。現在それを、興行収入200億円を記録して歴代ランキングで現在 5位(邦画では 2位)となっている新海誠監督の『君の名は。』が追いかけています。

(次作でも100億円越えを達成できれば、一発屋でないことが証明されて高い評価を得ることでしょう。)

ただ残念なのは、新海誠監督の作品である『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』『言の葉の庭』を最後まで観終わろうと何度も努力しているのですが、どうしても始まってから10分くらいでストーリーも絵も面白さを感じられず、観るのを止めてしまうこと。

宮崎駿監督のはあまりにも自然なので気がつかない繊細さと比較して、新海誠監督は分かり易いキラキラした繊細さ。そして自分の心の琴線には触れない音楽。

これが多分、時代が移ろい「コモディティ化」「液状化」が浸透した今の社会を生きる観客の感じ方なのでしょう。

宮崎駿 君の名は を語る

なにが人生を幸福にするのかはっきりわかるようになるには、手さぐりで明かりを探さなければならない

セネカ

(ブレグジット、トランプ現象が起きている現在、世界はふたたび大きく動き始めています。この流れは人々をどのような時代へ連れて行くのでしょうか、アニメのヒット作品の傾向も変わりそう。)

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時代に先を越された。

思い出すのは2013年9月の引退発表のまえのインタビュー。

時代を読むというか、今何がいるんだろうということを考えて映画を作ってきたが、だんだん追いつかれて、(大津波のシーンがある)ポニョを作った後すぐ3月11日が来て、風立ちぬを作ってたら時代に先を越されたような感じになって…

NHKインタビュー 2013年7月15日

宮崎監督の全盛期は、その頃の時代の雰囲気をうまく捉えて共感を生んだ『もののけ姫』『ハウルの動く城』に挟まれた『千と千尋の神隠し』が頂点で、その後は本人は気がついてたかどうか分かりませんが、年老いて時代に徐々に置き去りにされつつある姿だったような気がします。

そして気がついたら回顧懺悔録『風立ちぬ』と引退声明。

あれから 2年後、終わらない人になっていました。


終わらない人

NHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」

11月に放送され「極めてなにか、生命に対する侮辱を感じます。」発言でなにかと話題となった NHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」

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3年前の引退までのスタジオの喧騒とその後の嵐の去った後のような静けさに包まれるスタジオ風景との対比。最高にいい雰囲気。

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お茶を楽しみ、音楽を流しながら趣味の絵書きに明け暮れる。いかにも引退者らしく振る舞っている宮崎駿監督の姿。

仲間の葬儀に列席する機会も増え、手持ちの時間に限りのあることをひしひしと感じていることを感じさせるつぶやき。

「何にもしないって つまんないからじゃない?」

そんなとき、手書きにこだわり、頑なに CG を拒否してきた宮崎駿監督ですが、制作における体力的負担や熟練職人の減少の手助けになるかもしれないことに期待を持ち始めます。

その過程で、絵心のないコンピューターのオペレーターに指示することは、それなりに体で覚えた絵ごころのあるアニメーターに対するとは全く違う対応を求められることに気がついたのかもしれません。

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つまり、感性の働きどころが違い、技術を使うのに長けている世代が違う若い人に、意図する表現を描写してもらうためにどのようなコミュニケーションをとればいいのかが、最大の問題点と気づいたようです。

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人の手で描かれた曲線と CG の曲線の味わいの違い、といったところでしょうか。自分はその見分けのつかない中間が理想なのですが、その絶妙な曲線には出合っていません。まだ CG は最先端ではなく開発途上のところと思います。

そしてあの有名になったドワンゴのプレゼンテーションの場面。

「極めてなにか、生命に対する侮辱を感じます」とドワンゴ川上会長のプレゼンしたCGに宮崎駿監督が一蹴したエピソードが挿入されます。

この部分はアクセントが欲しかったNHK の演出が入っているような気がしますが、そんなに驚くことでもなく、もともと AI には、学習条件によっては意図せず「考え方」が偏ってしまうリスクがあり、既に人の心を傷つけてしまうことがいくつか起きています。

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窓の外の雷の鳴る風景。さすが NHK さん、分かり易い場面転換の演出ですね。

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長編を作るには金銭的なリスクが大きく、試しに短編でその可能性を手探り始めた宮崎駿監督。何かいい感触を得たのでしょうか、長編映画覚書企画を提案します。

「宮さんが絵コンテ描いて死んじゃうと。」
「そうすりゃ映画は大ヒットですよ。」

あえてドワンゴのプレゼンテーションを行ったのは、鈴木敏夫プロデューサーの意図するものであり、宮崎駿監督もそれは分かっていて、自分では言い出しにくかった「本当に最後の」長編映画づくりを決意させられたのかもしれません。まさに阿吽の呼吸。

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そしてまた死の報告。こうなれば死ぬまでやるしかない。

結局、これは宮崎駿監督の引退後の日常記録を利用した、鈴木敏夫プロデューサー謹製の宮崎駿監督復活宣伝ドキュメンタリーだったのでしょう。

しかし、ずいぶん「死」という言葉が多くでてきました。

「君の名は。」には、「あの世」っていう言葉がセリフの中に何回出てきたんでしょうか。20回ぐらいは言ってると思いますよ。で、「此岸」という言葉が1回登場する。「この世はいいところじゃないけれど、あの世へ行けば幸せになれる」。それをやった映画でしょ。そうすると、「シン・ゴジラ」と「君の名は。」は対極の映画なんだなって。そして、「君の名は。」にしても「モンスト」にしても、宮崎駿の影響が大きいなと思うんです。

宮崎駿の映画って、あの世へ行って、そこで体験したことをもとに現世へ戻ってくるんですよ。“あの世感”を描くのが宮崎駿はうまい。それを肥大させたのが「君の名は。」だと、僕は思いました。

鈴木敏夫が語る「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」


感 想

CG で作られた宮崎監督作品

もし、過去の宮崎監督の作品が CG制作だったら、こんな映像になっていたかもしれません。

Tribute to Hayao Miyazaki

オンリーワンの後継者という矛盾

一番おもしろかったのは、宮﨑駿とCGアニメを作り始めた櫻木優平さんが病院送りにされるシーン。

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勘違いから傑作を生み出す宮崎流の片鱗がキラリ

このとき感じたのは、宮崎駿監督は才能ある若いアニメーターをかなり潰してきたのかもしれないということ。そしてその怪物パワーにめげず生き残ったうちの誰が後継者となるのかがときどき話題になります。

観客層の世代交代は、また新たなスタイルでアニメ業界を牽引する人材を見いだすことでしょう。しかしそれははたして宮崎駿監督の後継者といえるのでしょうか。

オンリーワンの才能に後継者はありえるのでしょうか。

『君の名は。』の新海誠監督も報道陣から宮崎駿監督と比較する質問が出るようです。

どの国に行っても出るのはその話です。シンプルに思うのは、並べるのは過大評価であると『紅の豚』を見ながら思った。

宮崎監督は大きな手本だけど、同じ方向に行っても追いつけない。宮崎監督には久石譲さんの音楽のような手触りがある。

AI アシスタント

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宮崎駿監督に AI を提案するなら、現在の人間を介してのCG制作ではなく、監督と対話しながらそのイメージをリアルタイムでアニメーション化して進めていく、そんな対話型 AI アシスタントを提案して欲しかった。

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同時にその過程で AI が宮崎駿の絵コンテ制作過程を学習していけば、「宮崎ジブリ」の作風は永久に残すことができるのではないでしょうか。

あとはアイデアと想像力。これは AI 化が難しいので人間がやるしかありません。これができるのが本当の意味での宮崎駿監督の後継者。残念ながら現れない可能性もあるかもしれません。


『レッドタートル』の大爆死

2016年9月17日に公開されたスタジオジブリの『レッドタートル ある島の物語』は、封切り初週から観客動員数でランク外となりました。同週に一位を獲得したのは『君の名は。』。

時代に先を越された「ジブリ」は、そのネーミングだけでは観客はもうついてこないことがはっきりしました。

高畑勲と組んだ鈴木敏夫プロデューサーはかなり苦しんだのではないでしょうか。やはり、ジブリの新作とはいえば宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサーのコンビが一番。

もっと年配の先人もいました。宮崎駿監督も
がんばってください。

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できれば、『宮さんの女房』というのも読んでみたいものです。


本日の一曲

時。時間。歳を経るにつれて、その存在がはっきりと見えてきます。

そしておまえは太陽に向かってひた走る
そんなおまえを置いて陽は地平線に沈んでいき
また背後からおまえを抜き去っていく
おまえから見る太陽は何も変わらないが
おまえは確実に年をとっていく
息切れも激しくなり、そして一日一日と死に近づく


Pink Floyd – Time (1974) legendado

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