火星とオデュッセイア

国語力が落ちてきているのでしょうか、最近の外国映画の邦題には奇妙さを感じることがあります。

邦題(ほうだい)とは、日本以外の映画名、書籍名、楽曲名などを日本語で付け直したものである。これに関連して、本来の作品名のことを「原題」という。

邦題の付け方には直訳タイプと意訳タイプとがある。意訳タイプのなかには「名訳」、あるいは「迷訳」といわれるものがあり、しばしば人々の関心を引く。

邦題_Wikipedia

映画『オデッセイ』


映画『オデッセイ』予告

2013年『ゼロ・グラビティ(Gravity)』
2013年『エリジウム(Elysium)』
2014年『インターステラー(Interstellar)』

宣伝に期待させられては裏切られるダメっぽいSF映画の公開が続き、ハリウッド映画の商業主義という限界を乗り越えられる天才的な監督の不在に寂しさを感じるこの頃です。

そんなところに今度はリドリー・スコット監督によるアメリカのベストセラーSF小説『The Martian』の映画化の話題。

7月になって日本語の公式サイトオープンと同時にそれまで『火星の人(『The Martian』)』と紹介されていた邦題が『オデッセイ』となりました。

映画『オデッセイ』オフィシャルサイト

『The Martian』の邦題について

しかしまあ、原題からずいぶんかけ離れた邦題を考え出したものです。それも「~のオデッセイ」のような修飾用法ではなくて、「オデッセイ」そのもの。

火星に取り残されてサバイバルを展開するのですから、オデッセイという言葉の持つ長い航海のイメージはなく、原作にもそのようなニュアンスは感じられません。

どうしたらこのような発想になるのでしょうか。

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アンタレス付近の散光星雲

原題の『火星の人』あるいは火星は、ローマ神話の神の名である「マルス」と呼ばれます。

この「マルス」、火星と同様に赤く輝く天体であるさそり座のα星はアンタレス(アンチ・アレス)と呼ばれるように、ギリシア神話では「アレス」ですので『アレスからの生還』ぐらいが邦題としては適当なのではと思います。

ホメーロスの叙事詩由来のタイトルについて
 

『イーリアス』とその続編にあたる『オデュッセイア』は古代ギリシアのホメーロスの叙事詩名。

「オデュッセイア」の英語読みが「オデッセイ」で、主人公「オデュッセウス」の英名が「ユリシーズ」。

そして小説『ユリシーズ』は、1922年に出版されたアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの作品。

ブラッド・ピットの映画『トロイ』(2004年)は、『イーリアス』の翻案で、来年クランクインする予定の映画『オデュッセイア』は、『トロイ』の続編にあたる作品。

このように元々とてもややこしいのですが、さらに日本では、映画『The Martian』が原題とは無関係の『オデッセイ』として割り込もうとしているわけです。

この『オデッセイ』という日本語なのが英語なのかよく分からないカタカナのネーミングは、日本におけるホメーロスの叙事詩由来のタイトル問題にさらに混乱を招きそう。

2001: A Space Odyssey のタイトル

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アーサー・C・クラーク『失われた宇宙の旅2001(The Lost Worlds of 2001)』

この「オデッセイ」という言葉は、ホメーロスの叙事詩から転じて「長い航海」の意味でも使われることもあり、映画『2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)』の題名もここに由来します。

アーサー・C・クラーク『失われた宇宙の旅2001』によれは、初期には『Journey Beyonnd the Stars』とされていましたが、1964年 4月にキューブリック監督自身が『2001: A Space Odyssey』としました。

さらに日本での小説版の邦題は『宇宙のオデッセイ2001』でしたが、その後、映画と同じ『2001年宇宙の旅』となっています。

宇宙の音

ハードSF映画ファンとしていつも失望させられるのは「音」の問題。

全編に音楽と効果音で満たされて、観るたびに頭の痛くなる『スターウォーズ』シリーズは論外として、近年いくつか公開されたSF映画も、印象に残らない音楽や効果音、さらには宇宙飛行士が自分の心情をしゃべり続けたりとやたら騒がしいSFコメディと化しています。

宇宙空間とは音を伝播する物質がないということで「静寂」というイメージがあります。

ところが現実には宇宙空間では生身の人間は生きられませんので、音を伝播する性質を持つ気体とそれを維持する装置のなかに包まっているしかありません。

そんな宇宙ステーション、宇宙船あるいは宇宙服の内での実際の音はどうなのでしょうか。

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国際宇宙ステーション(ISS)での状況を知る資料によれば、空気循環ファンやポンプのような回転機器、空気放射音や入口や出口ダクト内の空気伝播音および振動音などが騒音源となって、かなりうるさいらしいのです。

そのため、睡眠など休養のために耳栓やノイズキャンセルヘッドフォンが考えられましたが、ノイズキャンセルヘッドフォンは静かになりますが警報音が聞こえなくなり、結局耳栓をしていたそうです。ところが皮肉なもので、長時間耳栓をしていると外耳炎等を起す感染源となることもあるそうです。

宇宙飛行士の心理的な面を考慮した人間工学の設計は予算の関係で蔑ろにされがちのようですが、さすが茶室や禅寺の文化のある日本実験棟は割に静かなようです。

「国際宇宙ステーション余話 第8回」

ということは将来火星に設置されるであろうアメリカの火星基地もかなりうるさいような気がします。

そんな火星で聞こえる音を映像と共に火星探査車オポチュニティが送ってくれています。この音は宇宙服のヘルメット内でも聞くことができるのでしょうか。


The first sounds of Mars are kind of freaky

オポチュニティ

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正式名称マーズ・エクスプロレーション・ローバーB(Mars Exploration Rover B)、ニックネームはオポチュニティ(Opportunity)。

2004年1月、オポチュニティは火星の赤道付近に位置するイーグル・クレーターの内部に着陸。NASAが想定した耐用期間の10倍以上が過ぎた2015年8月現在も移動可能で、着陸から12年目に突入した現在も探査活動を継続しています。

フルマラソン完走

2015年3月24日、NASAは火星表面で活動しているオポチュニティの走行距離が、フルマラソンに相当する42.195kmを超えたと発表しました。

火星到着から、地球時間で足掛け11年2ヶ月での記録です。

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この誇らしげなポーズ。かわいらしいヤツですね。

そして現在

現在オポチュニティは、これまでの走行距離にちなんで名付けられた「マラソン谷(Marathon Valley)」を調査中で、現在までの総走行距離は42.51kmに達しています。(8月18日時点)

フラッシュメモリストレージを使用できずにRAMモードで動作していますので、収集したデータは即座に送信されている状態。

Jet Propulsion Laboratory

オリオン号

映画『2001年宇宙の旅』では、地球と軌道上の宇宙ステーション5の往復に利用されるスペースプレーン「オリオン3型宇宙機」が登場しましたが、実際の「オリオン」号は火星を目指すようです。

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映画『2001年宇宙の旅』のオリオン3型宇宙機

NASAの有人火星探査計画

NASA は2030年代には火星で有人探査を実施する計画を立てています。

そこに登場するのが「オリオン宇宙船(MPCV)」。

オリオン3型宇宙機と同じく宇宙ステーションとの連絡用に開発されていましたが、火星の有人探査にも使われることになりました。

ところで、この「宇宙船」と「宇宙機」の呼び名にはどのような違いがあるのでしょうか。

たぶん、地上との連絡用なら航空機のように宇宙機、宇宙航行でも無人貨物は宇宙貨物機、人を載せた航行にも利用できるなら宇宙船といったところでしょう。

NASAの「オリオン宇宙船」は、2014年の長楕円軌道から地上への無人再突入試験が成功して、次は2017年の月周回軌道への無人飛行の予定です。

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NASAのオリオン宇宙船

火星の季節

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火星には地球と同様に太陽に対して自転軸を傾けたまま公転していますので、季節が存在していますが、公転周期が違うため(約687地球日)地球より季節の期間が2倍ぐらい長いそうです。

今後、火星についての情報が増えそうですので、このことを頭に入れておいたほうが良さそうですね。

孤立(MAROONED)

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火星に送られた無人探査車オポチュニティ(MER-B)にはスピリット(MER-A)という双子の仲間がいました。

こちらは2009年 5月に「トロイ」と呼ばれる砂地を通過しようとした際、車輪が砂に填まって身動きがとれなくなりました。その後、2010年の通信途絶まで着陸以来 6年以上にわたってオポチュニティと共に活動しました。

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スピリットによって撮影された火星の旋風

その友を失ってからすでに 6年。

火星でひとり活動を続けるオポチュニティの気持ちに思いを巡らしていると、人類が味わったことない異質な孤立感を実感できるような気がします。

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これをリドリー・スコット監督は『オデッセイ』で、どのように表現して見せてくれるのでしょうか。

ただ、マット・デイモン演じるマーク・ワトニー飛行士がけっこう前向きなので、期待している孤立感やリアル感は表現されないかもしれません。

やはりハリウッド好みで終わるのでしょうか。公開が楽しみです。

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今日の一曲

もう何度も紹介しましたが、 やはり今日の話題にはこの曲ですね。


Pink Floyd – Marooned (Official Video)

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