草津の湯に浸かりながら考えてみた。

草津の湯に浸かりながら考えてみた。

「魚の目に水見えず人の目に空見えず」

この言葉の意味は、あまり身近にあるものはその存在が目にはいらず、価値やありがたみもわからないということなのですが、魚や人が見ているもではなく、外からその魚や人を眺めれば、別なものが見えてきます。

それは時代という大河にすべての人が押し流されているということ。

自分のような凡夫には厚い霧に覆われた先を見通すことはできません。真っ直ぐなのか曲がっているのかも分からず流されている「今」と流されてきた後方の風景だけが見えています。

ただ、ほんの少しその河の先を見通すことのできる数少ない人物がいることも確か。

問題はその人物を見極めるのが難しいことです。とくに発した言葉がすぐに伝播して、コピーされ変形されてオリジナルがどこにあるのか分からなくなるこの時代には。

「30代や40代のアーティストが斬新なものを生み出して社会に貢献できることはめったにない」

スティーブ・ジョブズ『プレイボーイ』誌1985年2月号、当時29歳

平成という河の流れ

平成になって30年近くが過ぎ、周りに平成らしいデザインがちらほら見受けられるようになってきた気がしています。

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平成になって印象に残った出来事を思いつくまま並べてみると、

1988年 アニメ映画『AKIRA』
1989年(平成元年)1月8日に「平成」に改元。
1991年(平成 3年)長期に経済が低迷する「失われた20年」突入。
1993年(平成 5年)就職氷河期突入。
1994年(平成 5年)平成のデフレ不況突入。

・1995年 Amazon がサービスを開始。
・1996年 検索エンジンGoogleが開発された。

1996年(平成 8年)個人向けインターネット接続サービス一般化。
1995年(平成 6年)『新世紀エヴァンゲリオン』再放送、深夜アニメのジャンル化。
1997年(平成 9年)『もののけ姫』歴代邦画興行収入ランキング3位

・1998年 P2P技術を用いたファイル共有サービス Napster が開始。
・1999年 レンタルブログサービス Blogger が開始。

2000年(平成12年) 『リキッド・モダニティ――液状化する社会』
2000年(平成12年)日本のITバブル崩壊。
2001年(平成13年) 『千と千尋の神隠し』歴代邦画興行収入ランキング1位

・2001年 インターネット百科事典 wikipedia 開始。
・2001年 インターネット・バブル崩壊
・2001年 アメリカ同時多発テロ事件

2002年(平成14年) 「ゆとり教育」開始。
2002年(平成14年) 『茄子 アンダルシアの夏』
2003年(平成15年) 『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』歴代邦画興行収入ランキング4位
2003年(平成15年) 『冬のソナタ』第1次韓流ブーム
2003年(平成15年) 『バカの壁』年間ベストセラー書籍。
2004年(平成16年) 『ハウルの動く城』歴代邦画興行収入ランキング2位
2004年(平成16年) ファイル共有ソフト「Winny」事件
2004年(平成16年) 青山ブックセンター倒産

・2004年 ソーシャル・ネットワーキング・サービス Facebook が開始。
・2004年 写真の共有サービス Flickr が開始。
・2005年 動画共有サービス YouTube が開始。
・2005年 韓国でインターネットによるディスカウントジャパン運動開始。

2005年(平成17年) 『マンガ 嫌韓流』
2005年(平成17年) 創作歴史テレビドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』
2006年(平成18年) 『国家の品格』年間ベストセラー書籍。

・2006年 ソーシャル・コミュニケーション・ネットワーク Twitter が開始。

2007年(平成19年)『女性の品格 装いから生き方まで』年間ベストセラー書籍。

・2007年 スマートフォン iPhone 発表。
・2007年 Netflix ストリーミング配信によるビジネスモデルに移行。

2008年(平成20年)『暴走する資本主義』
2008年(平成20年)『崖の上のポニョ』歴代邦画興行収入ランキング5位

・2008年 リーマン・ショック。
・2008年 ポール・クルーグマンノーベル経済学賞受賞。

2009年(平成21年) 民主党政権成立 「失われた3年」が始まる。
2009年(平成21年) 『1Q84』年間ベストセラー書籍。
2009年(平成21年) 第2次韓流ブーム。
2009年(平成21年) 「2位じゃだめなんでしょうか?」発言。
2010年(平成22年) 尖閣諸島中国漁船衝突事件と映像流出。
2010年(平成22年) 『もしドラ』年間ベストセラー書籍。

・2010年 ソーシャル・ネットワークの浸透によるアラブの春始まる。
・2011年 Napster 消滅。

2011年(平成23年) 東日本大震災、福島第一原子力発電所炉心溶融。
2011年(平成23年) 東北・関東の電力不足による節電、クール・ビズ。
2011年(平成23年) 1ドル=75円32銭 戦後最高値更新。
2011年(平成23年) 「ゆとり教育」終了。
2012年(平成24年) 韓国の現職大統領竹島上陸。韓流ブーム衰退。
2012年(平成24年) 民主党政権終焉。
2013年(平成25年) 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催決定。

・2013年 HMV 経営破綻。

2014年(平成26年) STAP騒動で「コピペ」が話題。
2014年(平成26年) 慰安婦、吉田調書報道について朝日新聞謝罪。
2014年(平成26年) 『アナと雪の女王』
2014年(平成26年) 『21世紀の資本』
2014年(平成26年) ハイレゾ音源の定義や推奨ロゴが発表。

眺めていて、どうもバブル崩壊後の経済構造の変化、インターネット・サービスと消費者生成メディア(SNS)の普及、その影響による第二次世界大戦後の「民主化」によって作られた思想や権威の退潮やリテラシー変容の時代と言えそうです。

バブル崩壊による自律的でない人生の増加、長期間続くデフレによる物事に対する捉え方と価値観の変化、ITの発達による安易な情報入手による不確かな知識の蓄積、本当に実力ある権威者の減少、人間関係を結ぶ場所の変化と同質化、オリジナルとコピーの境界の曖昧さによる創造に対する考え方、メジャーとアンダーグラウンドとの等価化など、これまでの人々にとって未知のことが多く、心理的にもかなりプレッシャーのある時期だったような気がします。

こうしたことは、現在活躍している人達のその成長過程において、本人が自覚しないところで大きな影響を与えているようで、創作姿勢も含めた美意識も昭和生まれとはかなり違ってきているように感じ。

そして、2011年の東日本大震災と第2次安倍内閣の登場。

気づかないうちに平成という河の流れが大きく変化したようです。

その変化に取り残された人々の騒動が始まったようです。

東京五輪デザイン騒動

2020年東京五輪の新国立競技場、エンブレム、おもてなしユニフォームのデザインが発表されました。

好き嫌いは別として、これが「平成」という新しい時代のデザインなのかと感慨にふけっていたところ、やはりお金がかかりすぎるとかパクリとかいろいろ話題になっているようです。

公的事業でこれほどまでにデザインが批判されるのはあまり聞いたことがありません。

2006年(平成18年)デザインが公表された東京スカイツリーのときには、そのデザインに対する批判が大きな話題になることはありませんでした。大体の人が納得してその完成を楽しみにしていた記憶があるのと対照的。

新国立競技場

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新国立競技場の問題は「景観やデザイン」「建設費と工期」「デザイン決定プロセスの不透明さ」が指摘されています。

「新国立競技場の問題は、建築界ではほとんど踏み絵のようになっています。あの建物を否定しないと、建築家とは呼ばせないぞという雰囲気。」

とそのデザインについて業界内でもいろいろ議論がなされているようです。

建築家といえばフランク・ロイド・ライトとル・コルビジェしか知らない門外漢としては、このデザインはアール・ヌーヴォー様式あるいはアントニ・ガウディの建築物を現代風にアレンジしただけような気がします。

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確かに「生牡蠣」というよりは巨大な「自転車用ヘルメット」を想像させるデザインは一見異様ですが、ツールドフランスファンとしては見慣れたものです。

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リアル 『茄子 アンダルシアの夏』

ただ自転車用ヘルメットの場合は、機能性を追求したらこの形状になった必然性があるのですが、新国立競技場のデザインに求められているものなのでしょうか。

ザハ・ハディド氏はアール・ヌーヴォー様式と同じく「イカ」とか「エイ」など海の生物をモチーフとしたデザインが好きそうなので、これはひょっとして「エイ」あるいは「カブトガニ」からの発想かもしれませんね。

結果的に巨大な自転車用ヘルメットになってしまったわけですが。

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けれどもこうした H・R・ギーガーの『エイリアン』に始まるこの手のデザインは『新世紀エヴァンゲリオン』でも見慣れていますし、建築費用が納得できる範囲に収まるなら初期案の「カブトガニ」は面白いデザインと思います。

(庵野秀明氏にデザインを依頼すれば、もっと新東京らしくなるもしれませんが、富野由悠季氏率いるガンダム派が黙っていないでしょうし、ゆうきまさみ率いるパトレーバー派も参戦するかも。)

権威が失墜しつつあるマスメディアは、格好の話題ができたと「権力を持つ国と良識ある建築家と市民」という昔ながらの対立軸を持ち出すのでしょう。

しかし逆にこれは時代の変化に対応できないコメンテーターを識別するのにも役立つかもしれません。

アスリート

違和感を覚えるスポーツ用語として「アスリート」があります。

アスリート(athlete)とは、英語で運動選手、スポーツマンなどという意味。日本ではかつては「スポーツ選手」と言うのが一般的でしたが、1990年代後半(平成 7年)から英語の「アスリート」が使われることが増えたそうです。

つまり平成になって使用され始めた言葉ですが、単純に「スポーツ選手」が分かり易いと思います。

言葉を言い換えて手あかのついたイメージを取り払うことで、スポーツメーカーの売り上げ向上に寄与するかもしれませんが、やはりスポーツは泥臭く汗臭いのが現実。

「レッテル張り」とともに「換言」による誘導手法も平成になって常識になりました。

エンブレム

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2020年東京東京五輪のエンブレムがベルギーのリエージュ劇場のロゴと酷似していると指摘されている問題。

この東京東京五輪のエンブレムは、「LISMO」のキャラクター「リスモくん」の作者ということですから、今回の騒動もありえるなといった感想。

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LISMO は2006年1月からサービス開始。

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2006年秋に開店したカナダのブティック。こちらのほうがデザイン的に洗練されています。

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ほら、ホーマー・シンプソンも何か言ってます。

気になるのは、西武や無印良品などのアートデレクションに携わった昭和を代表するグラフィックデザイナーの田中一光氏の作品との比較。

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田中一光の個展「田中一光 美の軌跡」

昭和にはバランス感覚の優れた色彩豊かなすばらしいデザイナーが数多くいました。その昭和を代表するひとりの永井一正氏が選考委員長なのに、今回の東京五輪のエンブレムは残念です。

日本のデザイン力はどうなってしまったのでしょう。もっと素晴らしい才能を持った大人のデザイナーがいるはず。

それともデザイン決定プロセスの人間関係に何か問題があるのでしょうか。

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問題は続き、8月13日にサントリーは、問題のデザイン事務所によるトートバッグのデザイン8種類を取り下げを発表しました。

(この件では NHK が2ちゃんねるをソースとしたニュースを報道したことも注目されます。)

擁護していたデザイナーにも盗作疑惑とか仲間内でのお手盛りコンペ優勝など、話題はまだまだ続くようです。

この際、東京五輪のエンブレムも撤回して、「プロ」のグラフィックデザイナーやアートディレクターに任したほうがいいような気がします。

おもてなしユニフォーム

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プリントが施されている白地のポロシャツと日の丸をイメージした水玉のリボンが結ばれている紺色の帽子の組み合わせ。

こちらは韓国時代劇ドラマによく登場する朝鮮王朝時代に宮殿などを守った「守門将」の服装と似ていると指摘されています。

平成になって一時的に流行った韓流ブームに感性を影響されたデザイナーさんなのでしょう。デザインもさることながら、エンブレムと同様、こちらもタイポグラフィの線の細さとバラバラさは、人々が期待するダイナミックな東京五輪のイメージとはちょっと違うような。

舛添要一東京都知事はこのボランティアの制服について、同じ東洋に属する両国の友好と類似した文化の象徴と言えると語ったそうです。しかしこの発言、日本の五輪なのに何か妙な感じがします。

そしてこのデザインの発想の底流にあるものとして、トヨタのジャン・レノ扮するドラえもんのコスチュームを想像してしまいますが、これが平成を代表するファッションセンスということなのでしょう。

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そういえば、そのトヨタの『ReBORN』のデザインも確か東京五輪のエンブレムと同じ制作者によるものだったですよね。

なんとなく平成デザインの正体がなんとなく透けて見えてきたような気が。

警官の制服

平成 6年に森英恵さんのデザインによる現在の警官の制服に変わり、ガードマンなのか警察官なのか見分けがつかなくなって20年も経過しています。これも平成という時代を見事に予見したと言えます。

この際、東京五輪開催に合わせて警官の制服のデザインも変更すればと思うのですが、今回のデザイン騒動を考えるとまた大変な事に巻き込まれそうです。

次は東京五輪の日本代表選手団公式服装とトーチですか。またどんな話題が起きるのでしょうか。

今日の一曲

河ならぬ道の果てに待つものは一体何でしょう。


David Lynch & Lykke Li – I’m Waiting Here

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