ジブリのいない夏 2015

7月17日。今年はじめて蝉の鳴き声を聞きました。

「夏といえばスイカと花火と女だろ」
「スイカと花火で十分だよ」
「薄い人生だな おい」
「薄くたって軽くたっていいよ」

そんな会話が聞こえてくる頃です。

アニメ業界の変化と『バケモノの子』

ジョブズ亡き Apple がイノベーターからイミテーターに変身してしまい、 Google などがやっていることもサイダーの小粒な泡のようで、ずいぶんワクワク感のない時代になったものです。これが時の流れというものなのかと思っていたところ、アニメ業界にも同様な現象が起きているようで、アニメ業界にマイクロスタジオの設立が増え、ジブリのスタッフが移籍してジブリテイストの拡散が始まっているそうです。

そういえば、宮﨑駿監督の引退表明とスタジオジブリの制作部門の休止からもうすぐ一年。

2013年の『風立ちぬ』から二年目、今までなら夏休み前のこの時期、宮崎監督の新作封切りの話題で盛り上がるのですが、静かなものです。 ほんとうに休止してしまったのだと改めて実感しています。

これではちょっと寂しい夏になってしまうと誰かが考えたのか、細田守監督の『バケモノの子』のキャンペーンが行われているようで、地上波では「金曜ロードSHOW!」で 3週連続、Hulu でも、細田守監督の映画 3作を8月31日まで配信しています。

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ジブリに替わり細田守監督とスタジオ地図が、まるで日本のアニメを牽引していくような宣伝コピーを眺めながら、本当のジブリアニメの後継は高坂希太郎と貞本義行とのタッグチームではないのかと思っていましたので、Hulu で2006年『時をかける少女』、2009年『サマーウォーズ』、2012年『おおかみこどもの雨と雪』の前作 3作品を もう一度観てみました。

『時をかける少女』について

筒井康隆のいわゆるヤングアダルト(14歳から21歳まで)SF小説のアニメ映画化。

1965年に雑誌に連載された時には、まだ小学生でしたので、同じ年に始まった『スーパージェッター』がタイムマシンと未来少年の活躍に初めて出会った作品です。

同じ年の映画館で上映された東映の『まんが大行進』のタイトルには『スーパージェッター』のほか『狼少年ケン』『少年忍者風のフジ丸』『宇宙パトロールホッパ』『宇宙少年ソラン』が並んでいます。ジブリファンの年齢層が幅広いのも、そのルーツともいえる東映動画のこの時期における影響も大きいのでしょう。

当時タイムマシンを題材としたコンテンツが流行していたようで、その代表としてTVドラマ『The Time Tunnel(タイムトンネル)』があります。

タイムトンネル
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以前から1895年に発表されたH.Gウェルズの『The Time Machine(タイム・マシン)』に登場したタイムマシンはよく知られていましたが、映像におけるタイムマシンものとしては、やはり1966年(日本では1967年)のTVドラマ『The Time Tunnel(タイムトンネル)』が強く印象に残っています。

このドラマは、SFに近未来的なリアリティを追求したものとしてはエポックメーキング的な存在で、その後のSFにも大きな影響を与え、『2001年宇宙の旅』もその延長上にあると考えられています。

そして1968年『2001年宇宙の旅』に出会った感動からハードSFファンとなります。同時にダイナミックさに乏しく、科学的知識の裏付けも感じられない、まるで SF というフレーバーをふりかけた私小説のような筒井康隆、小松左京、星新一などの日本の SF作家の作品からは遠ざかります。

小説『時をかける少女』は1972年に NHK少年ドラマシリーズで「タイム・トラベラー」としてドラマ化されますが、この頃はすでにハードSFファンなので興味を引かれることはありませんでした。

結局『時をかける少女』は1983年の原田知世主演の映画が話題となって初めて観たことになります。しかし、内容的には薬師丸ひろ子『セーラー服と機関銃』のほうがおもしろかったのを記憶しています。


セーラー服と機関銃/薬師丸ひろ子(1981)


時をかける少女/原田知世(1983)

同様に、今回のアニメ版『時をかける少女』もたぶん過去に何回か観てるのですが、やはり今回もそのおもしろさは理解できませんでした。

タイム・リープを表現するために同じようなシーンが何度も繰り返されるのに混乱した頭には、タイム・リープを持つための技術が開発されているはるか未来の人類に、現在と同じような「恋愛」や「青春」といった感情が残されているのか、タイムパラドックスの問題をどのように解決するのか。そんな疑問しか残りません。

ストーリー的には約50年を過ぎようとしている古典『時をかける少女』の延長なのでだいたい想像がつき、目新しいこともあまりありませんし、絵の表現もジブリ系の人材が投入されている割には、何かもの足らなさを感じます。

ただ、何度も映像化されていることからもヤングアダルトものとしての普遍性は高いので、若い人には新鮮なのでしょう。

ところが、根っからのハードSFファンとして「SF」に「恋愛」「青春」を絡めた設定が馴染めないわけでもなさそうで、同じ「タイムトラベル」ものでもアニメ『時をかける少女』の一年前に公開された『サマータイムマシン・ブルース』は何度も楽しんで観てしまうのが不思議です。この違いはどこから来るのでしょうか。


Summer Time Machine Blues Trailer

『サマーウォーズ』について

いまのところ、この監督の作品で10年後に思い出すのはこれでしょう。これは面白いアニメです。

基本的に流行りの日常系の萌えキャラのアニメは観ません。貞本義行のキャラクターデザインは個性がありそうでない東映動画風なので期待して観てしまいます。この作品はそのチェックポイントをクリアしました。

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最初に印象に残ったのは、暗号化されたパスワードを解読している間の朝の訪れを、ゆっくりと開くアサガオでの表現。うまく宮崎駿監督の表現方法を取り入れています。

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次に、ヤングアダルトものにこそ「メメント・モリ」が必要なのですが、祖母の栄が死をうまく描いていること。身近な人の死の直後には身内はかなり動揺します。それが、終盤の OZ での一族の戦いでの団結に必然性を与えています。

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作品の舞台である長野県上田市周辺の描き方はうまい。「日本の原風景」としてこの目で確かめたくなる魅力があります。そして昨年の夏に実際に行ってきましたが、雨(台風)にたたられたので、今年もう一度行ってきます。

今度は青空で、『サマーウォーズ』気分全開。

よく批判される「家族みんなが公務員」という設定も、その昔武家の家族はすべて公務員であったわけで、陣内家は武家としての設定なのでこれも自然。部屋住みだった侘助は他国へ仕官の口を求めて旅立っていたという感じ。

仮想世界 OZ については、2003年から始まった Second Life(セカンドライフ)の俯瞰イメージをうまく表現しているなと思って観ていたのですが、それより後に開始された日記SNS mixi(ミクシィ)からの発想と聞いてちょっとテクノロジーに対してずれているような印象。

OZ の中心の大きな白い構造物はどうみても大きな「トトロ」。宮崎監督に対するオマージュなのでしょう。これは良くできていると思います。

また OZ にはジョンとヨーコという二匹のクジラが泳いでいるわけですが、実際に同時代を過ごしたものとしては彼らは仮想世界には似合わない印象を受けます。

同じくハッキングAIの「ラブマシーン」というネーミングは、世界的に有名なミラクルズの『Love Machine』の強烈な印象が強くイメージが違う感じ。


The Miracles – Love Machine

世代差による違和感をときどき感じることもありますが、動くイラストレーションとして気楽に観れば、日本の持つ人や自然に対する原風景の「イメージ」がうまく描かれた楽しめる作品です。

『おおかみこどもの雨と雪』について

3作目の『おおかみこどもの雨と雪』については後退感がぬぐえません。前作の『サマーウォーズ』から宮崎駿監督作品の公開年にぶつからないように公開しているようで、どうもスキマ狙いの作品のようです。

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狼を守護神とし狛犬の代わりに神社各所に狼の像が鎮座している三峯神社

妖怪モノ

古くから日本人が愛してやまない妖怪たち。ジブリ作品も妖怪モノの流れを汲んでいて、それが動員数を増やす一因にもなっていると考えています。多分『おおかみこどもの雨と雪』もこの路線で多くの世代にアピールして観客動員数を稼ごうとしたのかもしれません。

『おおかみこどもの雨と雪』の「おおかみこども」とくればどうしても『もののけ姫』の山犬に育てられた人間の娘「サン」を思い浮かべてしまいます。人狼と人、山犬と人という設定の違いは、妖怪あるいは神の使い(眷族)ではない人狼には共感を持てないということ。

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前作『サマーウォーズ』の舞台となった上田市の塩田にも「送り犬(狼)」という妖怪伝承はあるのですが、それは人狼ではなさそうです。人狼は西洋の異形のモノといった感覚が強く、日本人には馴染みがなく、古来からの妖怪とはいえないので共感されません。多分、妖怪ではない人狼のこどもという設定では日本人には馴染みがなく、広い幅の世代の共感を得るのは難しかったのでしょう。

あるいはここで描かれる人狼とは、日本の山地や里周辺部で過去に見られたとされる「山窩」のことかもしれません。ただ「山窩」については創作や俗説が多く、ほんとうのことはよく分かっていませんし、妖怪あるいは神の使いでもないようです。

どちらにしてもこの「人狼と人」という設定はこのアニメを観る最初から何だか納得いかない気分にさせられます。

『もののけ姫』観客動員数 1420万人、興行収入 193億円
『おおかみこどもの雨と雪』観客動員数   341万人、興行収入 41億円

それでも、この映画のある程度のヒットは出産適齢期の女性達のファンタジーを描いているからかもしれません。白馬に乗った年老いた田舎の王子様がシングルマザーを助けてくれるのです。

ただ、どこまでも未経験者のファンタジーであって、現実を体験している子育の終わったお父さん・お母さん達の共感をも得ることは難しかったのではと思います。

たぶん宮崎監督なら、もう少し突っ込んで、現在の日本の社会構造の矛盾のもとで起きているシングルマザーと貧困の問題についても描写したことでしょう。

「花」の晩秋

ひとり山奥の家で暮らす主人公の花は年老いて朽ち果てていきながら、何を思うのでしょう。

生命の大きな流れの中で、自分が「自分の属する」種の保存に役立ったという満足感を得て死を迎えられるかどうか、聞いてみたい気がするエンディングでした。

『サマーウォーズ』と違い『おおかみこどもの雨と雪』の舞台となった富山県上市町にはあまり興味を引かれません。
多分サマーウォーズと違い人物描写に重点が置いて、日本の原風景としての描写をする必要性を感じなかったからでしょう。

そして突然挿入されるCG臭満載の自然を描いたシーンには驚かされるのですが、全体の画調とのギャップを感じます。つまり、映像の「美しさ」や「印象深さ」が「信用」を凌駕してしまっている時に起こる現象を感じるのです。

『芭蕉の句』

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細田守監督の3本のアニメ映画作品を観て思い出したのが、芭蕉の句。

閑さや岩にしみ入る蝉の声

この有名な句もかなりの推敲を経たのはよく知られています。

舞台は元禄2年5月27日(1689年7月13日)出羽国(山形市)の立石寺の日暮れに近い時間。
登場する役者は「ニイニイ蝉」の衆。

山形領に立石寺(りゅうしゃくじ)と云(いう)山寺あり。慈覚大師の開基にして、殊(ことに)清閑の地也。一見すべきよし、人々のすゝむるに依(より)て、尾花沢よりとつて返し、其間(そのかん)七里ばかり也。日いまだ暮(くれ)ず。梺(ふもと)の坊に宿かり置(おき)て、山上(さんじょう)の堂にのぼる。岩に巌(いわお)を重(かさね)て山とし、松栢年旧(しょうはくとしふり)、土石(どせき)老(おい)て苔(こけ)滑(なめらか)に、岩上(がんしよう)の院々扉(とびら)を閉(とじ)て物の音きこえず。岸をめぐり、岩を這(はい)て、仏閣(ぶっかく)を拝し、佳景寂寞(かけいじゃくまく)として心すみ行(ゆく)のみおぼゆ。

この風景をラフスケッチのように描いたのが、初案の句。随伴した河合曾良が記した『随行日記』に記されている

初案 山寺や石にしみつく蝉の声

阪神大震災で被災した古書店主が半壊した自宅から持ち出した「おくのほそ道」の自筆本には74ヶ所もの推敲の跡があります。

再案 淋しさの岩にしみ込むせみの声
再案 さびしさや岩にしみ込む蝉のこえ

そして 閑さや岩にしみ入る蝉の声 と成りました。

「山寺」「淋しさ」「閑さ」と変化していくこの推敲に見られる言葉の感性の深まり。繊細さ、豊かなディテールそしてリアリティの深さ。それは宮崎監督の作品にも共通して感じられますが、細田守監督の作品には感じられません。

どうやらライトノベルの金字塔を目指しているのかもしれない細田守監督に、マスコミに書かれているような宮崎駿監督の後継者としての作品を求めるのはまだ早いのかもしれません。そう割り切って見れば、それなりに面白い作品群でした。

今日の一曲は 80年代の「コンピュータ・ラブ」という曲。

『サマーウォーズ』のハッキングAI のネーミングは「ラブマシーン」という名前よりこちらの方が洒落てたかもしれません。


Erik Wollo Computerlove Guitar Version of Kraftwerk

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