今年は杉浦日向子。

杉浦日向子さんの「百日紅」が長編アニメ映画化されました。『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』(さるすべり ミス・ホクサイ)の題名で今年の5月に公開予定だそうです。


Miss Hokusai Official US Release Trailer(2016)

往年の『ガロ』ファンとしては嬉しい限り。

監督が「河童のクゥと夏休み」「カラフル」などで知られる原恵一、キャラクターデザインは板津匡覧と自分の好みと違う系列で、公開されている画像の印象からも大丈夫かなと心配してしまいます。

制作が実力派のプロダクションI.G がということで、絵の表現力に期待。

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Production I.G / 作品紹介 / 百日紅

もうひとつ、同じ杉浦日向子さんの作品『合葬』も、映画化され2015年秋に全国公開されるそうです。

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残念ながら、こちらは実写映画版。

時代劇を演じられる魅力ある若手俳優がいなくなってしまった現在、奥深い表現力が必要なこの作品をなぜアニメにしないのか不思議です。

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杉浦日向子: 没後10年記念総特集(2015)

『ガロ』と杉浦日向子と自分が出合った江戸時代

1973年『浮浪雲』

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1973年から現在に至るまで長期連載されているジョージ秋山氏の『浮浪雲』という異色な漫画があります。

これは江戸時代の背景を借りて現在の社会問題についての物語を展開する時代ものです。1978年にテレビドラマ化、1982年にアニメ化されていますので、この頃に一般の江戸時代への再評価が始まりつつあったと考えています。

1979年『大江戸神仙伝』

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1979年の石川英輔のSF小説『大江戸神仙伝』(おおえどしんせんでん)は、のちにシリーズ化される「大江戸」ものの第1作目にあたります。2009年に放送されてヒットした『JIN-仁-』が似ていると話題にもなりました。

こちらも江戸時代の風俗を描きながら、70年代の日本と比較することで文明批判を展開しています。

1980年 杉浦日向子作品との出会い

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そして杉浦日向子さんが1980年、雑誌『ガロ』11月号で、吉原を題材にした『通言・室之梅』(つうげん・むろのうめ)で漫画家としてデビューします。多分このデビュー作は掲載時に読んでいると思います。

ガロ執筆陣の世代交代

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70年代から80年代のガロはそれまでの執筆陣からの世代交代が進み、『孤独のグルメ』の久住昌之、『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』の蛭子能収、荒木経惟、80年代のバブル時代に活躍した糸井重里、湯村輝彦、渡辺和博、南伸坊、その他、呉智英、花輪和一などが活躍していました。

ガロ三人娘

そのなか、杉浦日向子さん、やまだ紫、近藤ようこが『ガロ三人娘』と呼ばれ、女性特有の繊細なラインが新鮮でした。特に、杉浦日向子さんが、山本周五郎、藤沢周平系の市井小説の漫画版というべき江戸の風俗や庶民の人情を生き生きと描きだしたのがは印象的。

当時流行った「へたうま」に代表されるように、この頃の漫画のラインは劇画タッチからシンプルなラインでの表現に移行しつつあり、彼女のさっぱりとした浮世絵タッチの世界の表現が受け入れやすくなっていたからかもしれません。

1984年『元禄御畳奉行の日記』

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そして1984年、本当の江戸時代の姿への関心が高まっていたのでしょうか『元禄御畳奉行の日記―尾張藩士の見た浮世―』(中公新書)がベストセラーとなります。(25年後の2009年に中公新書が発表した累計発行部数でも第9位になっています。)

1984年『お江戸でござる』杉浦日向子のTV出演

この流れはさらに続き、1995年3月『コメディーお江戸でござる』が放送開始され人気を博します。漫画家だと思っていた杉浦日向子が江戸の町人文化を紹介する江戸風俗研究家として出演したのには驚きました。

2005年 杉浦日向子さん死去(46歳)

2004年春に『コメディー道中でござる』へ番組がリニューアルしたのを期に、作家の石川英輔に解説役をバトンタッチ。2005年7月22日、下咽頭癌のため死去。解説を降板した理由として「念願だった豪華客船で世界一周の旅をする」と称していたが、実は闘病していたことが、死後発表された。

wikipedia

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ユリイカ2008年10月臨時増刊号 総特集=杉浦日向子

その後

最近では『今昔!古地図東京巡り』『古地図片手に…ぶらり路線バスの旅』などのテレビ番組も好評を得ていて、江戸ブームはまだまだ健在なようです。

江戸借景

道徳の教本に掲載された「江戸しぐさ」


公共広告機構 江戸しぐさCM

AC(公共広告機構)のCMで全国的に知られるようになり、とうとう、道徳の教本にも掲載されるようになった「江戸しぐさ」。ここにきてなんだかおかしなことになっているようです。

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調べてみると『傘かしげ』『肩引き』『こぶし腰浮かせ』 などの「江戸しぐさ」は文献資料のどこにも記述がなく、古典落語にも出てこないらしい。

つまりフレーズとしては、江戸時代ではなく、江戸ブームの始まった1980年代の造語らしく、しかも商標登録されているということです。

「江戸しぐさの正体」著者・原田実氏インタビュー_BLOGOS

確かに商標登録には2009年前後に集中して 3件その後 1件登録されています。

株式会社井上海苔店\29 のり関連【登録年】 2008年
株式会社オールフロンティア\43 飲食物の提供【登録年】 2009年
特定非営利活動法人江戸しぐさ\16 印刷関連\41 セミナー、書籍、ビデオの制作【登録年】 2009年
株式会社アートプランナース\35 広告関連\39 旅行関連【登録年】 2014年

商標出願・登録情報_特許電子図書館

道徳の教本に掲載されている「江戸しぐさ」

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どうも「江戸しぐさ」の由来についての説明を教本に記載するのは問題があるような気がします。せめて「現在の社会生活において相手を思いやる所作を江戸風に創作したもの。」ぐらいの説明文が必要ではないでしょうか。

「江戸しぐさといわれる『傘かしげ』や『こぶし腰浮かせ』などは、相手を思いやる気持ちがないとできない動作です。重要な点は、それらが社会へ出る中で、人間関係の距離感を自然につくりだすという、独自の日本文化であることです」

田中優子

と江戸文化研究者である田中優子氏が語っています。

田中優子氏といえば、江戸文化研究者としての杉浦日向子さんの死去後に代役で出てきたイメージがあるのですが、あの「サンデーモーニング」に着物で出演してるコメンテーターといえば思い当たる人も多いのではないでしょうか。

ぜひ、立派な見識をお持ちの諸先生方が揃っているあの「サンデーモーニング」でこの問題を取り上げて、江戸文化研究者として誰にでも想像できる「江戸しぐさ」の意味ではなく、出自を専門的にきっちり解説してもらえないものでしょうか。

歴史小説と時代小説(大衆小説)

過去の時代背景を借りて物語を展開するのが時代小説であり、歴史小説は歴史上の人物や事件をあつかい、その核心にせまる小説である。

Wikipedia

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宮本武蔵

大衆小説として有名なものに吉川英治の小説『宮本武蔵』があります。

物語の中で描かれる「幼年期の呼び名 たけぞう」「お通」「又八」「沢庵和尚との出会い」「武蔵が決闘にわざと遅れた」などは吉川氏自身が述べているように彼の創作。

ところが、これを史実として記憶している人も多いようです。

伝記物、或は髷物、所謂現在の大衆小説と呼ばれるものは、正確なる時代的考証を全く欠き、何等厳密なる史的事実に基礎を置いて書かれてはいない。だから、歴史的にも、風俗的にも無意義であり、従って無価値である。

歴史家は歴史の事実上に於て必ずしも絶対権威ではない。だから史家の手のとどかない範囲外に出て、その延長を自然に感じさせ得るなら、そんな風な延長は許されるべきであろう。又、一連の事件に於ける史上のある人物を芟除したり、或は、事件の史的事実を毀さない限りに於て、興味的に又は事件を紛争させる点から、伝説的な、姓名のみ実在して史実の不詳な人物に活躍させることもあるではあろう。それ等は全くその小説自体の歴史的空気を乱さない範囲に於て、即ち、史実を曲げない限りに於て、最大限度に許されてもいいことであると思う。

直木三十五 大衆文芸作法

江戸借景のマナー教育について

「江戸しぐさ」も70~80年代からの「江戸ブーム」によって江戸時代はいいものとして再評価される流れのなかで、江戸という時代背景を借りた人情味のある大衆向け現代マナー説法のようです。

「江戸しぐさ」自体は意義あることと思います。

ただ、これを公的機関が「江戸時代に生まれました。」と教えるならば、その根拠を科学的な検証に基づく歴史的な事実を提示する必要と思われます。

「こうあってほしい」とか「こうあるべきだ」という思いで歴史を変えてしまうのは、後の世代に禍根を残します。

検証できるだけの技量を持たない子供達が歴史的史実として勘違いして記憶してしまう前に。


本日の一曲

いぶし銀のきいた80年代の曲。


いとしのファニー_映画『はぐれ雲』テーマ曲(1982年)

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