再びあの椅子について。

SUDAREの部屋「宇宙ステーションのロビーで使用されていたチェア」から 8年が過ぎ、ジンチェアについて再び調べてみました。

wpid-20141203_13-2014-12-3-08-22.jpg
「宇宙ステーションのロビーで使用されていたチェア」

wpid-20141203_01-2014-12-3-08-22.jpg
会社のロビーで実際に自分が利用していたターコイズブルーのジンチェアのシミュレート画像。

今年に入って、イギリスの「映画と家具」というサイトに

2001: A Space Odyssey – a close look at those fabulously futuristic Djinn chairs and how Kubrick’s vision of the future was brought to life through ‘product placement’.

「途方もなく未来的なジンチェアの終焉と、どのようにキューブリックの未来のビジョンが、 「プロダクト・プレイスメント」を通じて生活にもたらされたのか。」(たぶんこのような意味だと思います。)

という特集記事が掲載されました。

2001: A Space Odyssey Film and Furniture APRIL 30, 2014

そこで、再び「宇宙ステーションのロビーで使用されていたチェア」と加えてキューブリックの未来のビジョンの源泉について考えたことなど。


2001:a space odyssey CG Station-5 5 minutes

ジンチェア

wpid-20141203_02-2014-12-3-08-22.jpg

評価

ジンチェアは1965年にフランスのメーカー Airborne International のオリビエ・ムールグによりデザインされてから来年で50年目。60年代の未来的デザインを体現してデザイン史にその名を刻んでいます。

構造

この頃、様々な合成繊維の工業生産が開始されています。

1953年 ポリエステル繊維が工業生産開始。
1959年 ポリプロピレン繊維が本格生産開始。
1959年 ポリウレタン繊維が工業生産開始。

その特性をファニチャー分野のデザインに応用した傑作がこのジンチェア。

スチール製パイプにポリエーテル発泡体を使用してフォルムを成形し、発色が良く丈夫なストッキングのようなジャージ布地でカバーされています。だからこそ、あの全体に柔らかい波打つカーブを持ち、のけぞったようなフォルムを実現できたのでしょう。

ただ、このフォルムは『2001年宇宙の旅』のために特にデザインされたわけではないそうです。

ネーミング

「ジン」のネーミングは、アラブ世界の精霊や妖怪、魔人など一群の超自然的な生き物の総称であるジンに由来しています。当時放送されていたコメディ番組に『かわいい魔女ジニー(I Dream of Jeannie)』があります。こちらは「ジン」がヨーロッパに伝わった語の女性形。

カラー

映画に登場するジンチェアは鮮明な赤に写っていますが、これはライティングのため。実際には少々マゼンタっぽいピンクがかっていたそうです。マゼンタピンクファンという人種も存在します。

そして現在

残念なことにジンチェアは、内部に使用されているポリエーテル発泡体の経年劣化により使用できなくなり、大部分が消失しています。これは常識的には設計上の欠陥とも考えられますが、ムールグは “Things should have a short life” と強気な発言をしているそうです。

ニューヨーク・ワールドフェア

wpid-20141203_03-2014-12-3-08-22.jpg

1968年 4月公開の映画『2001年宇宙の旅』のちょうど 4年前となる、1964年 4月からニューヨーク万博が開催されました。

ちなみにこのニューヨーク万博の日本館にモックアップ展示された新幹線は、会期中の1964年10月1日に営業運転を開始しました。その10日後にオリンピックの開会式。1999年まではこの日が「体育の日」でした。どのぐらい過去の話か実感できますね。

キューブリック監督は、この万博のニューヨーク科学ホールでの特集「a living room that changed color」に影響されて、『2001年宇宙の旅』のセットデザインにも同じ効果を応用したいと考えていました。

wpid-20141203_04-2014-12-3-08-22.jpg
会場の雰囲気そのものからも『2001年宇宙の旅』的未来が伝わってきます。

wpid-20141203_05-2014-12-3-08-22.jpg
wpid-20141203_06-2014-12-3-08-22.jpg
New York World’s Fair GM のFuturama とディスカバリー号

wpid-20141203_07-2014-12-3-08-22.jpg
wpid-20141203_08-2014-12-3-08-22.jpg

New York World’s Fair U.S. Royal Tires とディスカバリー号のセット
 
wpid-20141203_09-2014-12-3-08-22.jpg
wpid-20141203_10-2014-12-3-08-22.jpg

New York World’s Fair U.S. 「Auto-Tutor」とディスカバリー号の TV電話

MODERN MECHANIX_New York World’s Fair1964-1965

未来の家

キューブリック監督は他にも、アメリカンホーム雑誌の「未来の家」の記事にも影響されています。

wpid-20141203_11-2014-12-3-08-22.jpg
50年代を代表するのは1957年にオープンしたディズニーランドの「未来の家」。

「家」というものはいつの時代にも夢膨らむ存在で、それぞれの年代に特徴的な「未来の家」があります。

最近、60年代の人々が想像した1999年の「未来の家」の貴重なフィルムがアップされています。


1999 A.D. (1967)

そして2010年代の「未来の家」。


The House of the Future

レトロフューチャーリズム
(1960’s retro futurism)

60年代は「技術の進化がもたらす明るい未来」が満載でしたが、そこで示された「未来」と未来であるはずの「現在」とは違ってしまいました。

1983年にロイド・ダンにより提唱された「レトロフューチャーリズム」とはパラレルワールドのような二重性を持ちます。現在(未来)から見る過去から見たもうひとつの現在(未来)を想像するクリエイティブアートのトレンドのひとつです。

1970年代の急速な技術の発展が、それ以前の楽観的な未来予測とは異なる「未来の袋小路」を示したとき、ほんとうは来るべきだった「技術の進化がもたらす明るい未来」を想像し思い描いたもの。それは何故か郷愁も誘います。

wpid-20141203_12-2014-12-3-08-22.jpg

Well-Rounded Retro Home_dornob

プロダクト・プレイスメント

映画には、特定企業の製品を登場させる広告ビジネスモデルがあります。

これは「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれる広告手法ですが、キューブリック監督はさらに、技術革新による未来的な製品を登場させ認知させる戦略的なプロダクト・プレイスメントを思いつきます。

現実の企業が提示する未来的なデザインを登場させることによって作品にリアル感を与えると同時に、デザインを開発するための幅広い人材を集める手間と時間、経費の節約にもなると考えたのでしょう。

そこで、画面に登場させることを条件として IBM、ハネウェル、ワールプール(キッチン)、メイシーズ、デュポン(ファブリック)、ヒルトンホテル、パーカーペン、ニコン、コダック(カメラ)、ハミルトン(時計)などのメーカーに、2001年における自社製品の制作を依頼しています。

セットと小道具の破壊

撮影終了後、映画に登場したオリジナルの小道具は残されませんでした。

キューブリック監督は撮影後、その制作コンセプトゆえに撮影使用後もデザインを流用される可能性があることを恐れて、すべてのセットや小道具を破壊してしまったのです。

続編の『2010年宇宙の旅』制作当時、前作のセットが残されていないということが話題になったことがあります。あんなすばらしい映画のセットがなぜ残されかったのか疑問に思っていましたが、今回その理由がわかったような気がします。

本日の一曲

リンゴ・スターが Tomorrow never comes.(思い立ったが吉日)ということわざをもじって発した言葉といわれるビートルズのナンバー。


The Beatles – Tomorrow Never Knows(1966年)

広告

「再びあの椅子について。」への3件のフィードバック

  1. こんにちは
    2001年の最後のロココ調 ?の白い間接照明に満ちた白い内装の部屋で使われた椅子についてなにか御存知でしょうか。
    3d CGであの部屋を再構成してみようと思ってます。
    ステーション内のヒルトンホテルロビーの椅子はお書きになっているように情報はあるようですが、あの部屋のfurnitureについては見つけられませんでした

    1. 『2001年宇宙の旅』がまだ『星々の彼方への旅』と呼ばれていたころのシナリオには、「スペース・ポッドは円の中心に着陸するーワシントン・ホテルの部屋の中に。」とあります。またこの映画が公開された頃のニューズウイークには「ルイ16 世時代の様式を真似たホテルのスイート」と表現されています。確かに使用されている家具の特徴はその脚にあり、まさにこれはルイ16世スタイル。

      つまり、1960年当時にルイ16世スタイル風調度品を使用していたホテルからの借用と考えられます。

      「Louis-XVI style」「2001 Louis-XVI style」辺りで画像を検索してみてください。

  2. ありがとうございます。
    最近『2001年宇宙の旅』の宇宙空間シーンの明瞭な影とあの室内の
    global illuminationのような明瞭な境界を持たない照明の雰囲気の部屋が気になってしょうがなかったものですから。
    かなりすっきりしました。
    重ねて御礼申し上げます。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中