フランスで今年 1月30日から開催された『アングレーム国際漫画祭』。ヨーロッパ最大級の漫画イベントであり、その歴史も30年以上にもなる。1974年にフランスのアングレーム市で開催されたのが始まり。
7年ほど前にこんなブログを書いていました。
少々遅れましたが、祝、水木しげる先生。
インターナショナル・コミックス・フェスティバル
MEMENTOMORI
少々遅れましたが、祝、水木しげる先生。 公開日:2007/03/22
フランスのアングレームで開かれたヨーロッパ最大のコミックスのイベント「第33回インターナショナル・コミックス・フェスティバル」で初めて、日本人のマンガ家水木しげる氏の『のんのんばあとオレ』がベストコミック賞を受賞したそうです。
『のんのんばあとオレ』は水木先生の自伝的漫画で、NHKで1991年に『のんのんばあとオレ』1992年に『続・のんのんばあとオレ』としてテレビドラマ化されています。このドラマには妖怪たちも出てきますが、扱いが2次元的で原作の雰囲気を忠実に表現していました。録画ビデオは保存版として大切にしています。
妖怪たちの表現といえば、大映の妖怪三部作『妖怪大戦争』(1968年)『妖怪百物語』(1968年)『東海道お化け道中』(1969年)はすべて観に行っていますが、あの頃はすべて特撮で妖怪たちが描かれており、その人間豊かなキャラクタがなんとも魅力的でした。
最近の『妖怪大戦争』(2005年)『ゲゲゲの鬼太郎』(2007年)はCGで妖怪が描かれたり実写の俳優たちの演技不足もあって、妖怪たちの持つ独特の雰囲気が表現しきれていません。往年の妖怪ファンとしては残念で、水木しげる、荒俣宏の両先生方にはもっとがんばって欲しかった。ほんとうの妖怪たちが泣いていますよ。(しかし、妖怪たちは生きているものたちの写し絵ですから、これが「いま」を生ける人々の実体かも知れません。)
しかし、キャラクターがパターン化した現在のコミックの方が分かりやすいのに、非常に土着的で個性的な水木しげる先生の画風をなぜフランス人が理解できるのか不思議です。事情通の娘に言わせるとフランス人はマンガおたくが多いそうです。(水木しげるの作品はけっして「おたく」的ではありません。日本で育った人が共通に持つこころの原風景です。)
ベルヴィル・ランデブー
LesTriplettesdeBelleville-LastScene
そういえば思い出しました。フランス=カナダ=ベルギーのアニメ『ベルヴィル・ランデブー』(2002年)です。
ド・スーザ婦人は小さな甥のシャンピオンを引き取るのだが、甥は何にも興味を示さず、死ぬほど退屈しており、彼女は絶望してしまう。そんなある日、彼がツールドフランスとチャンピオン選手の写真を隠していることに気付いた彼女は三輪車を買い与え、将来ツールドフランスの勝者にするべくトレーニングをすることに決めた。悲運の選択、彼女はこのようにして甥の運命をフレンチ・マフィアの餌食へと方向付けてしまった。マフィアは甥を連れ去り、大金をかけて行われるバーチャル競輪を催す不法カジノへ送り込む。ド・スーザ婦人はそこでマフィアの毒牙から甥を救出するべく、海を越えて甥探しに出かけることに決める。甥っ子を求めて、ベルヴィルで、北米の空想の都市で、ド・スーザ婦人の繰り広げる驚くべき追跡劇のスリラー喜劇作品。笑いと涙は保証つき。
確かに欧米といってもとくにヨーロッパは血なまぐさい歴史が多く、妖怪が跋扈しても不思議はありません。そんな土壌から生まれたような独特な表現には魅かれました。登場人物達がすべて妖怪に見えたものです。フランスではこの作品を100万人が観たそうなので『のんのんばあとオレ』人気もありかもしれません。
それから 7年後の騒動
そんな『アングレーム国際漫画祭』で今年、韓国が企画していた慰安婦関連の説明会の中止、「アジア館」に日本の市民団体ブースからの展示撤去など漫画とは別のところで騒動が起こりました。
主催者側のコメント
組織委員長であるフランク・ボンドは、韓国側の展示について「この展示会は普遍的な戦時状況の悲劇に対し論じたものにすぎず、両国の問題を議論するための展示会ではない」とし、漫画以外のことで紛争を起こす必要はないという意向を示した。
さらに、フランク・ボンドは共同通信のインタビューに応じ、「韓国側は写真など漫画以外の展示を再三求めてきたが、断った」など、韓国政府の展示が漫画祭の趣旨から逸脱しないように注意を払ったと語った。また、展示内容は作家個人の見方であり、必ずしも歴史的真実ではないとした。
その後の2月2日、ニコラ・フィネは、産経新聞の取材に応じ、韓国の作品の政治メッセージについては「答える立場はない」としたうえで、韓国による展示については、「(批判など)展示がもたらしたすべての出来事に不満がある。もっと違った形でやることができた。しかし、もう起きてしまったことだ。主催者は(この結果に)だれも満足していない。」とした。
この主催者側のコメントは的を得たもので、来年の漫画祭では漫画を政治ではなく文化として楽しめる対処をして欲しいものです。これはスポーツでも同様です。
2009年には水木しげる先生の『総員玉砕せよ!』が遺産賞を受賞しています。
これは戦争当時者の手記といえるもので当時の日本を批判的に描いていたとしても納得できます。では『竹林はるか遠く-日本人少女ヨーコの戦争体験記』と比較して韓国による「散ることのない花」はどのようなものだったのでしょうか。韓ドラのストーリー展開手法で簡単に想像できますが。
たとえ「歴史的真実」であったとしても、科学的検証なしに誇張して政治の駆け引きの道具として利用することを善とするのは、まさしく「唯女子與小人難養也」。
過去の歴史において為政者は、歴史を自分に有利に書き換えることはよくあることです。ただ、近代に入り膨大な量の資料が残されるようになると、その検証はいろいろな立場により解釈が異なります。歴史問題は為政者による改竄に対し自由に批判できる社会体制のもとで、聡明な歴史家たちの判断に準拠するべきでしょう。
と前置きが長くなりましたが、
■ 目玉モチーフ
今回の『アングレーム国際漫画祭』で気になったのはこのポスター。
そう「目玉」です。
今回の目玉は「目玉モチーフ」特集
そして「目玉」あるいは「目」をモチーフとしたものを思いつくものを集めてみました。
トルコのお守りナザール・ボンジュウ
トルコの代表的なお土産でもあり、どこのお土産屋にも大量並んでいるナザール・ボンジュウは、トルコのお守り。青いガラスに中心から青色・水色・白色の着色で目玉が描かれ、邪視から災いをはねのけると信じられています。
マルタの目の描かれた船
マルタ島の海岸でよく目にする青と黄色の鮮やかな船ルッツ。その舳先に描かれた一対の目は魔除け。嵐や不漁から守ってくれると漁師は信じています。
ギリシャお守りイーブルアイ
イーブルアイは、悪魔の視線から身を守ってくれるという目玉模様の魔よけの「お守り」です。
ウアジェトの目(ホルスの目)
有名な米1ドル札の目。古代エジプトのシンボル。ホルスが父オシリスの敵セトを討つ時に奪われた左目のこと。
スポンジボブ・スクエアパンツ
パイナップルの家に住んでいる四角形の海綿動物(スポンジ)。チーズと勘違いされることも。花に対してアレルギーがある。
目玉親父
日本人にとって「目玉」といえば国民的アイドルの「目玉おやじ」でしょうか。今年 1月13日、ゲゲゲの鬼太郎のアニメ放送開始からずっと目玉おやじの声を担当していた田の中勇さんが亡くなっています。またひとつ寂しさが増えました。
『20世紀少年』の友達マーク
ご存知、浦沢直樹の漫画『20世紀少年』の友達マーク
■ トライポフォビアファッション
子供の頃、鱗を取っていない赤魚の粕漬けの焼けた鱗の総立ち状態を見てぞっとしたのを覚えています。
それと似たものに蜂の巣や蟻の巣、蓮の実などの小さな穴の集合体に対して恐怖・嫌悪感を抱くトライポフォビア(集合体恐怖症)というものがあるそうです。最近トライポフォビアは恐らく人類の進化によって習得された生存本能に根差したものではないかとレポートされています。
蓮画像に対する恐怖は人類の進化に根ざした自己防衛本能、研究者_ScienceNewsline
そして目玉とトライポフォビアが組み合わさるとご存知「百目」の恐怖となります。
そして驚くのは昨年の「百目」ファッション。
2013-14年秋冬パリコレクションで注目を集めた「目」をモチーフにしたデザイン。
もしこれをシュルレアリスムというのならば、その元祖はやはりこれですね。
つげ義春『ねじ式』
ということで「目玉」特集を終わります。
本日の一曲
目玉の洪水にはミニマル音楽が似合うかも。スティーブ・ライヒやテリー・ライリーと共に「ミニマル音楽」の巨匠として知られるフィリップ・グラスです。
Philip Glass – Aguas da Amazonia (HQ)