それより1985

「1984」というタイトルで一番に思い浮かぶのは、やはり名作ジョージ・オーウェルの未来小説『1984年』。つぎに Apple Computer 社のMacintosh のコマーシャル。 …



1984 George Orwell Movie Trailer

 


1984 Apple’s Macintosh Commercial

 

村上春樹がなぜ1955年生まれを取り上げたか

そして最近、村上春樹の『1Q84』ということになります。

今、一番恐ろしいと思うのは特定の主義主張による『精神的な囲い込み』のようなものです。多くの人は枠組みが必要で、それがなくなってしまうと耐えられない。

村上春樹

 

今年4月の時点で、『1Q84』の発行部数は、300万部を超えたそうです。

『1Q84』での登場人物、青豆雅美は 1954〜55 年生まれ、川奈天吾は 1954〜55 年生まれという設定になっていますが、同年代としては、微妙に違和感を感ます。(たぶん他の世代には分からない微妙なところなのですが)

これは、村上春樹は1949年生まれで、団塊の世代に属するのですが、その世代から眺めた感があるからでしょう。この辺は、村上 龍のほうがその心情をうまく捉えるのではないでしょうか。

問題は、「村上春樹がなぜ1955年生まれを取り上げたか」なのです。 村上春樹は『1Q84』で精神的枠組みの喪失過程を描こうとしているかもしれませんが、1955年生まれにも「カミ」の存在は、あるのです。

日本人と「カミ」

その導入部が『2001年宇宙の旅』のメインテーマ曲となってあまりにも有名なリヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』。

もともと『2001年宇宙の旅』は神としての宇宙の生命体を主題としてしています。「神は死んだ」と宣言したニーチェの著作にインスピレーションを得た同曲が選ばれたのもわかります。

このニーチェの提起した「神の死」は善悪の行いを基準とした「死後の世界」の崩壊を招きニヒリズムをもたらしました。

しかし、幸いなことに世界の果ての極東日本には八百万の神がいました。好きな神様を選ぶこともできます。気象、地理地形に始まりあらゆる事象に「カミ」の存在を認める。これが北アジア、とくに日本人独特の世界観でした。(とはいえ古神道の源流はアイヌの宗教に見いだされるのですが…。)

日本人にとって本来の死は「極楽」「天国」「地獄」にいくわけではなく「自然に還る」こと。 日本の風土から生まれ、再び日本の風土に溶け込んでいき祖先といっしょになることなのです。

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日本語で来世を表す最もポピュラーな言葉は、「あの世」だろう。 「あの世」と言えば、死後の世界である。 深刻なケースは別として、日本人同士の日常的な会話の中では、「死んだらあの世であいましょう」とか、「先にあの世に行って待ってますよ」とか、「お互い、そろそろあの世からお迎えがきる歳になりましたね」とか、ニヤニヤしながら、あたかも楽しい出会いの場でもあるかのように語られることが多い。

呉 善花

このあたりは、1956年生れの呉 善花(オ・ソンファ)『ワサビの日本人と唐辛子の韓国人』の「あの世」についてのエッセイでなかなかおもしろい観察をしています。

やはり結論は、「人の魂も他の自然物の魂も、それぞれ個別的な状態から一個のトータルな祖先霊=カミ、自然神=カミへと一体化していくという思想なのである。」となります。

他国の人が聴いた、人々の会話から垣間みる本当の日本人の心情ほど、事実を語るものはありません。ですから、道徳の教科書よりも時代小説、なかでも山本周五郎、藤沢周平などの作品、古き良き日常生活を描いた市井小説を読ませた方が日本人としての自覚向上にはずっと良いかなと考えたりします。

子供の頃の記憶
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その日本古来の「カミ」は、1955年生まれにもその親から受け継がれています。子供の頃の記憶には、戦傷者がまわりに普通にいたりして、戦後の復興期のなごりがあった覚えがあります。まだまだみんな貧乏なのですが、やっと生活が落ち着いてきたそんな時代に、日本人のもともと持っている暖かい心情が漂っていました。そのなかに「カミ」様も生きていました。

無力感から一種の個人主義へ

そして65年以降、高度成長時代の後半に突入し、この頃から世の中が変わってきました。

公害、過疎化、あさま山荘事件、オイルショックなどの負の問題が次々に起きてきたのです。そして、高度経済成長の終焉、学生運動の衰退。一つの時代の終わった無力感から一種の個人主義へと向かいました。

「ノンポリ」「個人生活優先」「モラトリアム」。今では当たり前のようになった「内向き」の志向はまさにこの世代から始まっています。とくに1955年~1964年生まれは「おたく第一世代」とも呼ばれています。

僕らの世代が1960年代後半以降、どのような道をたどってきたかを考えていくべきだという気持ちはあった。僕らの世代は結局、マルキシズムという対抗価値が生命力を失った地点から新たな物語を起こしていかなくてはならなかった。何がマルキシズムに代わる座標軸として有効か。模索する中でカルト宗教やニューエイジ的なものへの関心も高まった。「リトル・ピープル」はそのひとつの結果でもある。

村上春樹

『1Q84』の違和感は、やはりここに原因があります。

もともとマルキシズムには縁がなかった(というか、もともと思想的な拠所を必要とせずに育った、)ところから新たな物語を起こしていかなくてはならなかった1955年生まれ世代とは、根本的な違いがあるのです。

1984年はずっと過去になっていますので、実際の世代以外にはわからないかもしれませんが、この物語は、まぎれもなく学生運動世代のオマージユであって、それらしく装ってはいるのですが、以降の世代のもつ感性とは異なっています。

彼が現実から少しだけねじれた世界で進むとしている物語を、あたりまえと思う世代です。

同様なことは、雑誌『遊』を創刊した松岡正剛にも感じますが、松岡氏の場合は、次世代を装ったりたりしないので、新しい知識のダイジェストメーカーとして存在価値があります。

そのかわりマルチメディアを自分のものとして使いこなせていない感がありますので、書物以外のビジュアルではいまいちです。

もうひとつの流れ

ここまではよく目にするのですが、実はこの頃もうひとつの流れがありました。前述した雑誌『遊』と『別冊宝島』の隆盛です。

1971年創刊の雑誌『遊』は「オブジェマガジン」と称し、あらゆるジャンルを融合した独自のスタイルはたいへん目新しいものでした。

また1976年創刊の『別冊宝島』。

『宝島』の別冊として創刊された『全都市カタログ』からはじまります。政治問題からサブカルチャーまで、「若者のための新書」「知識マガジン」として定着しました。無力感の一方、その欠けた空虚を埋め尽く何かを探そうと読み漁りました。内容はかなり高度だったと思います。

精神世界ブーム

そして極め付けは別冊宝島の『精神世界マップ』。

精神療法、悟りの心理学、幻視宇宙学、肉体と魂の迷走療法、神秘学、環境デザイン、ニューエイジ・アカデミズム、伝統を継ぐ賢者たち 60年代のヒッピーカルチャーあるいはカウンターカルチャーから発展した新しい知識の潮流のオンパレード。

これには参りました。 で、起こったのが「精神世界ブーム」です。この手の本は、市中の書店ではあまりお目にかかれなかったのですが、急に本棚の最上段から最下段までぎっしりと置かれるようになってびっくりした記憶があります。(なんとイマヌエル・スエデンボルグの『霊界日記』や『天界と地獄』が地下街の書店に普通に並んでいたのです。)

どうもこの「精神世界ブーム」は10 年毎に繰り返すようで、その後もなんどかありましたが、内容的にはあまり変わりませんので、その後のブームには乗っていません。

分かれ道

ここから道は二つに分かれます。 ひとつは村上春樹が『1Q84』で描こうとしている道。 そして 「ま、いいか。」とふたたび古き良き国に「カミ」が戻ることを信じて現世(うつしよ)に戻る道。 その結末は20年後に明らかになっています。

アメリカの「1955年に生まれて」

日本の「1955年に生まれて」は、その後の日本のカルチャーに大きな影響を与えていますが、アメリカの「1955年に生まれて」はもっとすごいですね。武力を使わずに世界中の仕組みを変える方法を発明してしまいました。これがなければ、世界がフラット化することもなかったでしょうし、「リーマンショック」もなかったかもしれません。 IT業界における最も偉大な10人のうち上位4名が「1955年に生まれて」なのです。

1. Steve Jobs(Apple)

2. Tim Berners-Lee (Web の発明者)

3. Bill Gates(Microsoft)

4. James Gosling(Java の生みの親

それより1985

『1984』ではありませんが、1985年が日本の転換期となったと考えている人々も多く、自分もその一人です。 そのきっかけは、藤原新也の1983年『東京漂流』『メメント・モリ』から3年後の1986年の著作『乳の海』で山口百恵、松田聖子、三浦和義、怪人二十面相のエッセイが妙に気になったことから。

思うに、ウロボロス的状況は、すでに85年の段階において、時代を担ったペルソナ・スターたちがその末期にあって先駆的に兆候を示し、囚われはじめた明るい病でもあった。 ただ私に分かっているひとつのことは、その自己消滅過程の蛇がブルーな涙を流したのは1985年の出来事であり、今、86年ウロボロスと呼ぶべきものは消滅を果たした蛇のことであるということだ。

藤原新也『乳の海』ペルソナ以降

ウロボロス(ouroboros, uroboros)は、古代の象徴の1つで、己の尾を噛んで環となったヘビもしくは竜のこと。 そして、あるときふと気がついたのです。その「消滅を果たした蛇」は日本人のこころのなかに静かに深く沈み込み、現在に至っていると。

バブル景気の引き金になったのは1985年のプラザ合意からといわれています。 この年は日本が株価最高準となりバブル全盛となり、日本経済が大きな転換期を迎えたといえる。子供文化も1983年に登場したファミリーコンピュータのブームによって大きく変化した。芸能面においてもおニャン子クラブ登場により芸能文化が大きく変化したといえる。このようにして誕生した高度消費社会は敗戦後の日本社会の終着であり日本が最高に豊かになっていった年でもあった。

当時のできごとで記憶に残っていることは、

1984

米アップルコンピュータがマッキントッシュを発表。

【ベルリンの壁の崩壊とウィンドウズ】

米アップルコンピュータがAppleTalk開発。

【ワークフロー・ソフトウェアと共同作業の開始】

江崎グリコ・江崎勝久社長が何者かに誘拐される。3日後の21日に無事発見。

熊本名産の辛子蓮根がボツリヌス菌に感染したことによる食中毒発生。

麻原彰晃がヨーガ道場「オウムの会」を始める。

ロサンゼルスオリンピック開催。

オーストラリアからコアラ6頭が贈られて日本に初めて上陸。

東京都世田谷区の通信ケーブル火災で電話などがマヒ。

マハラジャ麻布十番店がオープン。

禁煙パイポ発売。

日本の平均寿命が男女とも世界一に。

1985

シェル石油と昭和石油が合併し、石油業界再編の先駆けとなる。

田中角栄元首相が脳梗塞で倒れ入院。

ソ連のゴルバチョフ書記長就任。

【ベルリンの壁の崩壊とウィンドウズ】

DNSに最初のドメイン名「symbolics.com」が登録される。

【インターネットの普及と接続の自由】

日本初のエイズ患者を認定。

日本電信電話公社が日本電信電話株式会社(NTT)に民営化。

【インターネットの普及と接続の自由】

男女雇用機会均等法が成立。

エホバの証人の信者が、息子への輸血を拒否、死亡する。

豊田商事の永野一男会長が自室玄関前にマスコミ取材班が集まる中、マンション内で刺殺される。

グリコ・森永事件で犯行グループから「終結宣言」が送付され、以降動きが途絶える。

女優の夏目雅子が急性骨髄性白血病により死去。

ロス疑惑の三浦和義が逮捕。

【スーパーマリオブラザーズ発売。】

東海道・山陽新幹線の新型車両100系がデビュー。

フラット化する世界

ついでに、トーマス・フリードマンのグローバリューションが広まって世界がフラットになった要因とあげているものの起点と考えられるできごとには、【】をつけておきました。

現在社会に大きな影響を与えている『フラット化する世界』は 20年以上前からその素地があったわけです。 どうもお疲れさまでした。

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